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「うわあぁあ落ちる!!」
全力で羽ばたく。なんとか無事に地面に降りることができた。
「ここが人間の住む世界か……ん?」
ピコンッ。
『落下を阻止することで二次被害を防いだ! +1点』
腕の測定器を見ると軽やかな音とともに小さなハートのマークが隅にひとつ現れた。
『あと499個。がんばろう☆』
「なるほどこうやって増やしていくのか」
ていうかこんな些細なことでも判定するなんて天界のやつら暇なのか。
「ったくミカの野郎……面倒くさいことさせやがって……いきなり人間界で過ごせって言われてできるわけないだろ」
どうしろってんだ。
点数を稼げと言われはしたが自分は知らない土地、知らない人間たちの中でいったい何をすればいい。
まさに右も左も分からない状況。
私の明日はどっち?
「上に帰るって隠しコマンドもあったりして」
ぼけーっと上を見上げ呟きながら現実逃避してるとブブーッ! と腕の方から音がする。
先ほど得たハートが半分減っていた。
弱音も許さないとはなかなか厳しい。
「ん?」
向こうの方から騒がしい声がした。
パタパタと羽根をひろげ騒ぎのする方へ向かう。
建物と建物の間にある薄暗い場所。
よく見ると何人かの集団がひとりの男の子を蹴ったりしている。
足蹴にされてる少年は亀みたいに丸まって身を守っている。
私の中の闘争本能に火がつく。
「ケンカかこらぁぁあああぁああッ!!」
血が疼き集団に向かって飛び蹴り(飛翔つき)をかます。
奴等はボウリングのピンみたいに弾け飛んでいった。
「ふぅストライク」
スッキリした。ストレス溜まってたんだよね。
「おい、大丈夫か?」
未だ丸まってる少年に声をかける。
「うぅ」
少年は顔を上げると、
「はい! ありがとうございます。おかげでこの子も無事でした」
「この子?」
少年の腕のには小さなてんとう虫が一匹囲われていた。
「先ほどの人たちに踏まれそうだったので」
「あんた虫を守ってボコボコにされてたの!?」
「えへへ……」
気をつけて、てんとう虫は少年の手のひらから飛び立っていった。このてんとう虫がいずれ大きくなっていつか織物や野菜を持って恩返しに……なんて妄想はおいといて。
「はあ~虫一匹のために身をはるなんて変わった奴もいるんだなぁ」
「君こそ羽根なんてつけちゃって変わってるね。それ悪魔の仮装? ハロウィンってもう季節じゃないよね」
「悪魔じゃなくて堕天使だよ。威張ってる奴や強そうな奴いると血が騒ぐんだよ。ちょうどストレス溜まってたし万々歳~! ……げ」
言いかけて腕の測定器を見る。
せっかく人を助けて加点されると思ったのにこんなこと言ったら点が下がってしまう。
『……』
判定音が鳴らない。
どうやら物言いがついてるようだ。
しばらく見てると、
ブッ。
と小さく鳴った。
「結局減るのかよ……」
四分の一まで欠けたハートを見てげんなりする。
「なにそれ?」
少年が横から覗いてきた。
「腕時計なのに時刻がうつってない。ハートの欠片?」
「……測定器だよ。善良な行いによって数が加算されるんだ。私堕天使だから天使に戻る試験中でさ、ポイントが貯まるまでこの世界で良いことしまくらなきゃいけないんだ」
「へえ~、じゃあ、マイナスになったら? 堕天使さんこのままじゃ溜まるより先にマイナスになる方が早いよ」
「たしかに……じゃない! マイナスになったらなんて知らねぇよ。とにかく昇ることだけ考えなきゃいかんのこっちは!」
「へえ~じゃあここはおあつらえ向きの場所だね」
「ここって?」
「見ての通りここは学校だよ。不知火高校。僕もここに通う一年生だよ」
「学校」
確かに周りを見渡すとそれっぽい風景だ。自分が天使時代通ってた(サボってたが)学校と雰囲気が似ている。
ピロリーン♪
腕の測定器から音が鳴った。
画面を見るとメッセージが送られていた。
『ここまで通過おめでとう☆今からは不知火高校の生徒【堕合ベル】として潜入しポイントを稼ごう☆』
「え!? 私も学校に入るの!?」
嘘でしょ!?
言ってる間に光が私を包み、一瞬でボロい布切れの服から制服姿に変わっていた。
「うわっ堕天使さんが制服堕天使に!」
「堕天使じゃない! 私の名前はベルだ」
そうか。
学校なら人がたくさんいる。
人がたくさんいるってことは困ってるやつもたくさんいるってわけで。
確かに楽して点数稼ぐには願ったり叶ったりの場所だ。
「よっし! 慈善活動しまくってちゃっちゃと天界へ戻ってやろう」
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