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長襦袢を着た椿は振袖を見つめる。何度この振袖を着ただろうか。この振袖には恋雪との思い出がたくさん詰まっている。
「おばあちゃん、お願いします」
「はいよ。世界一可愛くしてあげるからね」
着付けとヘアセットが終わると、椿は鞄の中にスマホや財布などを入れた。そして玄関に向かって歩き出す。
「おばあちゃん、行ってきます」
「行ってらっしゃい、椿」
扉が閉まる。椿は息を吐いて歩き出した。息は白く染まり、一瞬にして消えていく。しかし、椿は寒いとは不思議と思わなかった。
恋雪が指定した神社は、二人で何度も初詣に行ったことのある場所だ。家から歩いて十分ほどで着く。
「うわ、すごい人……」
元日のためか、初詣に来る人で神社は賑わっている。しかし、大勢の人の中からすぐに恋雪を見つけることができた。イタリア製の黒いコートを着て白い息を吐き出している。
「恋雪!」
椿が手を振りながら駆け寄ると、恋雪が「来てくれてありがとう」と何故か緊張した様子で言う。椿が「どうして緊張してるのよ」と訊ねても、恋雪は顔を逸らして「行こうか」と誤魔化した。椿は首を傾げながらも隣を歩く。
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