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「ヘタうっちまった。  とうとう俺も、ここまでか」  俺は、胸ポケットからタバコとライターを取り出した。箱に残りわずか2本のうちの1本に火をつける。  血でべとついた俺の右手は、思うようにライターを着火させられず困ったものだ。  いや、指が滑ってしまってね。  俺の血だ。  時間とともにタバコがじんわり赤く湿りだす。切れた唇からのものもあるだろう。赤が似合わない白い一本の紙巻き。震えた手に委ねたせっかくの着火も、単に薄い煙をあげるだけと化し、なかなか至福の一服にたどり着けない。ああ、難儀だなあ⋯⋯。息をするにも息が切れる⋯⋯。  戦場を走るカメラマンにとって、『勘』は大事な才能だ。敵も味方もなく、そこにある真実を撮り続けるために働かせる才能なんだ。  異国の紛争地区で、撃ち殺されないよう兵士たちと顔見知りになり、仲良くなって情報を聞き出す。  そのためにもってこいのツールがタバコだった。自然と溶け込めて馴染んでいける。喫煙所と呼ばれる閉鎖的空間においても、全くの他人同士が交流をもつきっかけをもたらすツール。  それがタバコである。  いまだ俺の口元では湿った煙しか味わうことができない。  もうすぐ夜が明ける。  這うようにして逃げ込んだこの路地裏にも光が差し込んでくるだろう。  もたれかけた壁がひんやりと冷たく感じる。  俺の指先は氷水(こおりみず)に浸けたように、まるっきり感覚が飛んじまった。  そろそろ……やべぇかもな。
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