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今のところ、俺にとってのデメリットは何もなさそうだし、考えても分からないなら、その事実を認めるしかない。そう思って、再びDVDプレーヤーの再生ボタンを押して映画を再開させた。
このDVDプレーヤーを購入してから、俺は毎晩のように"皆呪"を再生しては、ダメ出しをして映画を育て続けた。一つ改善すると、今度は別のところが気になり、もはや終わりが見えない作業になっていたが、俺はその作業が楽しくて取り憑かれたように一時停止と再生を押していた。
「しかし、何回この映画観ても、このヒロインはほんと美人だよな。他の映画やメディアでも観たことないけれど、どこで見つけてきたんだろ」
今まさに、主人公の男性とヒロインが抱き合っているシーンだ。町中に呪われた人が溢れ、殺し合いをしている。その中を二人は、安全地帯を求めて脱出を試みる、そんな絶望的な現実を前に気持ちを通じ合わせている。場面としてはすでに改善して、育て終えているシーンだ。
「ああ、くっそ。俺もこんな美人と抱き合って、キスしたいぜ」
生まれてこのかた、女性とキスどころか付き合ったこともない。俺のファーストキスがこんな美人だったら一生自慢できるな、と思ったところで自然と一時停止を押していた。
「この主人公の男優のかわりに、俺がこのシーンを演じた方が絶対に良いシーンになる」
自然と口に出していた。そして、再生ボタンを押した次の瞬間、俺の意識が何かに引っ張られるような感じがした。目を開けると、今までモニター越しに観ていたあのヒロインの姿があった。やった、俺はこの美人とキスができるんだ。俺は映画の中に入れたんだ。俺は高揚する気持ちを抑えきれずに、人生初めてのキスをヒロインと交わした。
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