29人が本棚に入れています
本棚に追加
***
ひらひらひら、と。シャワーのように降り注ぐピンク色の花びらが、地面にふわりと降り立つ様子をぼんやりと眺める。
時折吹き抜ける強く生暖かい風は木々を揺らし、より一層辺りを薄桃色に染め上げていた。
...結構、散っちゃってるなぁ。
風に揺られた金の髪が視界に入り、俺は編み込んでいない方の毛束を耳にかける。
...花は、全般的にあまり好きではない。綺麗だとは思うけれど。
「おい四ノ宮、何をぼさっとしてるんだお前は。もうすぐ式始まるだろ。」
後ろから聞こえた声に振り返ると、生徒会長である北島が、やや呆れ顔でこちらを見ていた。
「...あ、ホントだ。そろそろ行かなきゃですね。」
高等部の入学式が終わってまだ間もないが、本日は、生徒会及び風紀委員会等の役員就任式である。
全寮制の男子校であるこの学園では、生徒会の役員などは、立候補ではなく全校生徒の人気投票で決まる。その人気投票に、大きく左右するのが新聞部が発表する「抱かれたい男・抱きたい男ランキング」というもの。
このランキングからお察しの通り、小等部から高等部までの一貫男子校であるこの学園では、閉鎖的な環境も相まってか、同性愛者やバイなどが生徒の九割を占めるという事態が起きていた。
本当は規則違反ではあるが、フラフラと寮を抜け出すことの多かった俺は、一応異性と付き合ったことはあるものの、中等部からこの学校にいるせいか、同性愛にも特に抵抗を感じることはなくなっていた。
「3年連続の会長就任おめでとうございます、北島会長。」
並んで体育館に向かいながら、そう言えばと思い出し、へらりと隣に笑いかけた。俺の言葉をふっと鼻で笑った会長が、当然だろと、いつも通りに返してきて。
...会長は相変わらずだなぁ、、
なんて思いながら、頭上をひらひらと舞い散る花びらを見上げた。
「...俺、会長とまた一緒に仕事できて嬉しいなぁ、、」
木の枝にはまだ、広がる青を彩るようにピンク色の花弁が並んでいる。まだ深い緑に変わるのは、当分先のことのような気がした。
「...お前は本当に、相変わらずだな。」
「え?」
言ってる意味が分からず目を瞬かせた俺に、呆れたような短いため息を会長が漏らす。ほら行くぞ、と告げた会長の手が、くしゃりと頭を撫でて。足早にステージ裏に向かっていくその後ろ姿を、俺は慌てて追いかけた。
「蒼衣様!」
「あ、蒼衣様だ...」
「今日も本当に麗しいお姿で、」
囁かれる自分の名前に振り返り、その集団に向けてひらひらと手を振れば、爆発したような歓声が体育館に響き渡って。
...皆元気だなぁ、、
なんて思いながら、自然にへらりと口元が緩んだ。
「おい、四ノ宮。誑かしてないで早く来い。」
ステージ裏の方から鋭く聞こえた会長の声に、は〜いと返事をして、そちらに足を向ける。
「誑すって何ですか?人聞き悪いこと言わないで下さいよ、会長。」
多分話していたのは、俺の親衛隊の子達だろうから、素通りするのも悪いと思って手を振っただけなのに。
隣に並んで文句を言った俺に、会長はまたもや呆れたような目を向け、ため息をつく。
「...お前はそうやって、無自覚だから余計たちが悪いよな。」
「...はい?」
首を傾げた俺に、会長はそれ以上何も言うことなく前を向いた。
「「あ、アオだ〜!!おはよう!」」
口をつぐんだままの会長に諦め、天井の木目を眺めていると、そんな俺の耳に綺麗にハモった高い声が響いて、俺は後ろを振り返った。
最初のコメントを投稿しよう!