そこにまだいる

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「勉強では甲田(こうだ)さんに適う子いないけどさあ、 絵だけは内野(うちの)さんだよね」 美術部員として参加した絵が美術室の壁に飾られている。 それを見ていたら、同じクラスの女子に言われた。 私の絵には銀色のテープが貼られて銀賞、内野明子(うちの あきこ)は 金賞だった。 そう、成績は一位をキープしているけど、絵だけは内野明子に勝てない。 他のコンテストでも、選出されたのは私と明子で、明子は大賞を取った。 芸術の秋の風が、私にとっては冷たく刺さってくる......。 内野明子、あんたさえいなければ。 私は絵でも輝けるのに! あのボサボサの枝毛の多い黒髪を掴んでやりたくなる。 あんな外見にはなりたくないと、髪の手入れに時間をかけている。 小柄で小太りの明子と違って、私は痩せてて長身。 運動だって得意で機敏、それなのに絵だけは明子が上なのだ。 しかも明子は傲慢さを出さず、気さくで謙虚で友達も多い。 ううん、元から群れるのは好きじゃない私としては、そこはどうでもいい。 けれど美術に関してはいつも神経を乱されている。 そもそも、ムキになって明子にすべてで勝とうとしてるわけじゃない。 私は真剣に絵で食べていけたらと思っている。 美大も目指している。 だけど......明子も受験するなら私は落ちるかもしれない。 そんな疑心暗鬼にも襲われていた。 いやだ、いやだ、いやだ、嫌いな奴のことなんて考えたくもないのに。 どうしたって、意識して胸の奥を掻き混ぜられて気持ち悪くなる......。
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