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「ただいま」
「あら、遅かったのね。累くん先に御飯食べてもう家に帰ったわよ」
「え? そうなの?」
「何だよ、アイツ。まだ十八時じゃん。まぁいいや、俺たちだけで食おうぜ」
「……うん」
自宅に着き、夕飯の場に累が居ないことをがっかりする純恋を、
「そんなシケた面すんなって。食ったら家に来りゃいいことだろ? 家には市橋も居ねぇんだからさ」
これ以上落ち込まないよう励ます彗。
「……そう、だよね。うん。ご飯、食べよっか」
そんな彗の優しさが少し嬉しかった純恋はいつになく素直に返していた。
「おじゃましまーす」
御飯を食べ終えた純恋は丹波家へとやって来た。
「累は部屋みたいだな。久々に三人でゲームでもすっか! 純恋、累呼んで来い」
「はいはい」
いつもなら命令口調の彗に苛立ちを感じる純恋だけど、今は累に会えることが嬉しいのか軽い足取りで累の部屋に向かって行く。
「累〜これから彗とゲームやるんだけど、累もやらない?」
部屋の前までやって来た純恋はノックをして用件を話す。
「純恋?」
すると累がドアを開けて顔を出したものの、いつもの部屋着ではなく何故か着替えている彼を見た純恋は嫌な予感を覚えた。
「あれ? 累、出かけるの?」
「ああ。実は麗華の弟の家庭教師を頼まれてさ。これから麗華の家に行くところなんだ」
「……家庭教師……」
「悪い! 急ぐからもう行くわ。またね、純恋」
もうあまり時間が無いようで、純恋をその場に残し、累は急いで階段を降りて行ってしまう。
(……市橋さんの家……か)
暫く純恋が累の部屋の前に立ち尽くしていると、
「純恋、いつまでそんなトコに突っ立ってんだよ? 家庭教師頼まれてんだから仕方ねぇだろ? 準備したし、俺たちだけでやるぞ、ゲーム」
家庭教師のことを累から聞いたらしい彗はいつまでも戻ってこない純恋の様子を見に階段を上がって来てそう声を掛ける。
「……私、やらない」
けれど、とてもゲームなんてやる気分になれないらしい純恋は、感じ悪い返しだと分かっているものの、気付いたらそう口にしていた。
そんな純恋に流石の彗も、
「はぁ? 累が居ないからか?」
面白く無さそうに聞いてくる。
「…………」
「……もういいよ。勝手にしろ」
訊ねても何も答えない純恋に呆れたのか彗は怒り、そのまま自室へと入ってしまった。
「あ……」
それには純恋もまずいと思ったものの、それはもう後の祭りで、こうなると今はもう何を言っても彗は部屋から出て来ないと知っている純恋はトボトボと階段を降りて行き、 丹波家を後にした。
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