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一方、部屋へ戻った彗はというと、
「……はぁ……」
ベッドの上に寝転がり、早々に自己嫌悪に陥っていた。
(解ってる。純恋が累を本気で好きなことくらい……分かってるけど)
「やっぱ、面白くねぇよな」
頭では理解していてもやり切れないというか、なんというか、心にモヤッとしたものが燻っていて、ついつい苛立ちが募っていく彗。
彗は昔から損な役回りをしている。
けど、それで三人一緒に居られるならと思って別に気にも止めて来なかったものの、最近それが苦痛になってきていた。
それは何故か。
――彗が、純恋を好きだからだ。
それも無理は無いのかもしれない。
幼い頃から累同様一緒に過ごして来た訳で、純恋のことなら何だって解る間柄。
それでも、純恋が累を好きだと知っているし、累は大切な家族で、尊敬する兄でもある。
二人が上手くいくならそれでもいいと、彗は自分の気持ちを封印して、せめて純恋とは何でも言い合いが出来る仲でいようと、憎まれ役に徹していた。
「累、累って……俺の気も知らないで……」
(確かに、累はいい奴だ。それは俺が一番よく分かってる。双子な訳だしな)
彗はずっと、累に対してコンプレックスを抱いている。
それは双子ゆえ、なのかもしれない。
(俺がどんなに足掻いても、累の足元にも及ばない。それくらい、累には非の打ち所が無くて出来た人間だ……)
純恋が累を褒める度、累を求める度、頭では理解していても、自分のことも求めて欲しいという思いを抱いてしまい、余計に苛立ちが募る彗。
「あー! イライラするな!」
ベッドから身体を起こし、机の上に無造作に置かれたヘッドホンと音楽プレイヤーを手に取った彗は苛立ちから逃れる為に音楽を聴きだした。
別に、聴きたい曲がある訳でもないのだが、静かな空間で色々なことに悩むのが疲れたようだった。
そんな時、何気なく傍に置いてあったスマホを彗が手に取ると、メッセージアプリの通知が来ていることに気付く。
「またかよ。面倒だな」
そう口にしながらメッセージの送り主に返信をする彗。
相手はとある人の紹介で知り合った女の人。
苛立ちから深く考えるのも面倒だった彗は普段なら絶対受けることのない誘いを、安易に引き受けることにしてしまったのだ。
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