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十 伝承の白天狗
「妖しの森には、強大な神通力を持つ白天狗がいるぞ」
「だがその白天狗は昔々、人に育てられたらしい」
「かつて妖しの森には、人と妖しを繋ぐ『妖屋』と言う家があったそうじゃな」
「あぁ。その妖屋の人々が白天狗を育てたんだそうじゃ」
「もう数百年前の話じゃろ」
「そうだ。だが、人情が通じる白天狗の話など面白いではないか」
かつて「妖屋」があった跡地は、数百年の後には旅人の休憩小屋となっていた。
旅人が休憩小屋で妖しの森の白天狗について語る時、休憩小屋の側にある大杉の天辺に腰をかけ、満足そうに噂話に耳を傾ける白天狗の姿があったが、人々は気づかない。
白天狗は大事そうに懐から、組紐を取り出して握りしめた。
──人は襲うものじゃないの、守るものだよ
脳裏に、胸に。
もう居ない、白遊の涼やかな声が今でも響く。
妖しの森の白天狗は、人を襲わず人助け。
きっと今でも白遊の教えを守り、妖し仲間とひっそり人を助けているのかも知れない。
〈了〉
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