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三 天狗のたまご
「これは、天狗のたまごじゃ」
小さな光玉を持って帰って来た白遊を見て、兵右衛門は驚いた。
「天狗のたまご?」
白遊は首を傾げる。
「百年、いや千年に一度。まったく素質のない天狗が現れると言う。素質がなくても天狗は他の妖しにとって、滋養になるから狙われる率も高くなる。素質がない天狗が生まれる時には、たまごの殻で自分の身を護るのだそうだ。昨日の突然現れた大岩もこの、天狗のたまごのせいかも知らんのう」
兵右衛門の言葉に白遊が驚く。
「落ちこぼれ?」
「妖力を持たない天狗は素質がないままなら、長くは生きられぬ。だが、育て方によっては、稀代の大天狗にもなり得る。はてさて、白遊、お前さん凄いものを手に入れたな」
寝る前、白遊は小さなたまごを割らない様に、そっと枕元におく。
それから、ぼぅ、と光る小さな玉を両手で包んだ。
「お前も捨てられたの? 私とおなじだね。でも、大丈夫。私は側にいるよ。私がおまえを大天狗にしてみせるから。だから、安心して生まれておいで」
そっと、優しくたまごに話しかける。
ぼぅとした光がすこしだけ強くなった気がした。
白遊は枕元に小箱を置いた。その中に折りたたんだ手拭を入れて何層かにした後、天狗のたまごをその中にそっと置いた。
白遊が寝てしまったあとも、天狗のたまごは一晩中、ぼんやりと発光していた。
「きゅう……」
微かな鳴き声で目が覚めた。
懐に小さな者がくっついていて、すぅすぅねむっている。
白遊は目をこすりながら、自分の胸元にくっついている小さな者を見つめた。
手のひらに収まる大きさ。
丸い団子っ鼻。
肌も髪も真っ白。
枕元には小さな高下駄と団扇が置いてある。
「天狗……」
思わず呟くと、小さな天狗が目を覚ました。
寝ぼけ眼で白遊をじっと見つめる。
白遊が眠っている間に一人で生まれたのだろうか。
話に聞いていた天狗の威厳はまるでない。
ひよこの様に小さく、ぷくっとした丸い風貌。
辛うじて、微かに天狗の風貌はあると言った具合だった。
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