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空、今だけさ……
今は人目を気にした方がいい事ぐらいは俺も分かっていた。じゃなきゃみんなの協力が無駄になる。
悪い事をしたら反省をする。
それは嫌と言うぐらい言われて来た言葉だ。
それでも俺は空といたかった。
だから家に上げて俺の部屋に入れた。
ここなら誰にも見られない。と思うからだ。
「はぁはぁ……全力疾走とか久々過ぎてキツ……」
「……はぁ、俺も。体力落ちたなー」
お互い夏休みでだらけた体力を実感して、俺の部屋でしばらくぐったりしていた。
俺はベッドにうつ伏せに横たわり、空は床に膝を立てて座っていた。
「あ」
座ったままの空が壁を見て小さく声を上げた。
空の視線の先には安っぽい額縁に飾られた男の絵があった。
そう、夏休み中に空が描いてくれた俺の似顔絵だ。
「飾ってくれてるんだ♪嬉しい」
「当たり前だろ。空から貰った初めてのプレゼントだからな」
「そっかぁ、なんかあげたいなぁ貴哉に」
「別にいらねぇよ。余計なもんに金使うな」
「同棲するんだもんね♡」
「お前、いつもの空に戻りやがったな」
体力が回復したのか空は俺がいるベッドに近付いて来て、顔をグイッと近付けて来た。
前だったら普通の事だけど、今は違う。
俺は真顔で見ていた。
「貴哉、抱き締めていい?」
「……いいよ」
俺は体を起こして両手を広げて空を待つ。
空がベッドに膝を乗せて俺を抱き締めた。
優しい温もりに俺は目を閉じて空の細いのに意外としっかりしている背中に腕を回す。
空だ。空の匂いがする。なんだか懐かしい……
俺が自分で遠ざけた懐かしい匂いだ。
「空ってこんな良い匂いだったっけ?」
「匂い?香水付けてねぇよ?あ、髪かな?高いトリートメント使ってるから」
「相変わらずだなぁ」
とか言いつつも空の髪の匂いを嗅ぐ俺。この匂いだ。この見た目に一切妥協しないお洒落男はたまに女子かと思うぐらい気合を入れる時がある。
一緒に出掛けた先でも良くトイレに行っては鏡の前で髪をいじったりしてる。
俺はずっとそんな事してて疲れねぇのかなって思ってたけど。
「趣味なんだよ。良い匂いとか好きだし。見た目も綺麗なのが好き。俺が髪の毛ボサボサとか嫌だろ?」
「昨日ボサボサだったじゃん」
「あれは急いでたんだ!桐原さんからのメッセージ読んだのがシャワー浴びてすぐだったんだよ。お洒落とか気にしてられなくて慌ててマンション飛び出したよ」
「俺は嫌じゃねぇよ。どんな空も空だ」
「貴哉……好き」
「コラ」
「もーダメ。我慢しようと思ったけど無理だ!」
空が一瞬俺から離れようとしたから、俺は離れまいと腕をキツくして逃さないでいた。
そんな俺に空はほっぺにキスをして来た。
今はこの温もりをもう少しだけ感じていたかった。
「貴哉、辛かっただろ?よく頑張ったな」
「何言ってんだよ。自業自得だろ。あんま甘やかすなよ」
「甘やかすよ。大好きなんだもん貴哉の事が」
「空、今だけさ……」
「貴哉……」
「付き合おうぜ」
「!」
俺も限界だった。
むしゃくしゃしたのもあるし、好きな奴とこんな事してたらムラムラもする。
もし今目の前にいるのが空じゃなくて伊織だったとしても同じ事を言ってたのかもしれない。
とにかく今は誰かの温もりに甘えていたかった。
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