これからは何があっても俺に声をかけるな

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これからは何があっても俺に声をかけるな

   家を出るとすぐに目に入って来たのは見覚えのある原付。そっか、伊織んち遠いもんな。これで来てくれたのか。 「あ、帰りまで停めさせてよな。凛子さんには許可取ったから」 「いいけどよ、お前大変だろ?遠いし、今日だけでいいからな」 「大丈夫♪俺が貴哉といたいからさ」 「でもなぁ、お前といるとやたら周りに見られるんだよなぁ」 「それは仕方ないだろ。俺だし」 「…………」 「自覚ないみたいだけど、貴哉もかっこいいんだぞ?そんな二人が一緒に歩いてたら目立つのは当然だろ」 「え!俺かっこいいか!?」  初めて言われた言葉に素で喜んだ。  可愛いなら言われた事はあるけど、かっこいいは初めてだ!嬉しくて伊織を見ると、ジーッと俺を見て来て何かを堪えるように笑った。 「いや、やっぱ可愛いが強いかも♡」 「なんでだよー!じゃあ期待させるような事言うんじゃねぇよ!」 「俺の中ではもう可愛いくて仕方ないんだって♡」 「嬉しくねぇ!可愛いって言うな!」 「あ、貴哉ー、今日って午前中だけじゃん?部活もねぇし。どっか遊び行かね?」 「やだ。帰って寝る」 「えー、遊ぼうぜ~。カラオケとか行きてぇな」 「ファンとでも行ってろって」 「貴哉は俺がファンと遊んでもいいのか?」 「なんでそんな事聞くんだよ。別にいいだろ」 「そのファンが俺を好きでも?」 「…………」 「可愛いー♡安心しろって!俺は貴哉だけだから」 「いらねぇ!ファンと付き合っちまえ!」  あーもう!付き合わないって決めたのに、こうして普通に話してるのヤバいな。流される所だったぜ。  えー、空ともこんな感じになるのかなぁ?面倒くさっ!  そんな感じで派手な伊織とのんびり歩いて学校へ向かっていると、なんだかんだいい時間になっていた。  今日は朝から体育館かー。暑いだろうなぁ。校長の話なげぇんだもんなぁ。サボっちまおうかなぁ。  門をくぐり、校舎に近付くと玄関前に人が大勢集まっていた。なんだよこりゃ、邪魔くせーな。 「おい伊織、あれなんだ?」 「さぁ、みんな何か拾ってんな」  上からパラパラ紙が落ちて来て、それを拾って見て騒いでいた。  俺達も側まで行って何を見ているのか見てやろうとしたら、近くにいた奴にギョッとした顔で見られた。てか誰だよお前。 「あ?なんだその反応?」 「い、いえ、別にっ……」 「それよこせ。見せてみろ」  変な反応をしたそいつから紙を奪う。紙ってか、写真だった。  そしてその写真を見て俺は何も言葉が出なかった。 「おい、写真の奴じゃね?」 「うわ、桐原さんと一緒とかマジじゃん」 周りからそんな声が聞こえて来たけど、俺は現状を理解するのに苦戦していた。  その写真に写っていたのは俺だった。そして伊織も。浴衣姿の伊織に後ろから抱かれている俺だった。これって、花火大会の時のだよな?え、何これ?どういう事だ? 「貴哉!俺達の写真が屋上からばら撒かれてる!」 「っ…………」  写真はそれだけじゃなかった。  伊織が持っていたのは裸の俺と伊織がキスしてるやつだった。分かりづらいけど、演劇部のBBQ大会の時のだ……  どれも隠し撮りっぽい感じだけど、まさか誰かにずっとつけられていたって言うのか? 「い、おり……?なぁ、これ……」 「貴哉っ」  伊織が俺を抱えるように肩に腕を回して校舎に入った。  校舎に入っても周りからは写真を持ちながら俺達を見てヒソヒソと話したり、ニヤニヤ見られたりした。  クソっ!誰だよこんな事しやがった奴!  何が起こったのか分からず真っ白だった頭だけど、段々と怒りが込み上げて来て、伊織の腕を振り解いて俺はスニーカーのまま階段を駆け上った。  屋上からばら撒かれてるって言ったよな!?犯人捕まえてぶん殴ってやる!  バタン!と勢いよく屋上のドアを開けて乗り込んで行くが、屋上に人の気配はなかった。逃げられたか!クルッと振り向くと追いかけて来た伊織と目が合った。 「貴哉!大丈夫か?」 「大丈夫な訳ねぇだろ!」 「落ち着けって、俺も少し混乱してるんだ」 「あー!誰だよ犯人!見つけ出してぶん殴ってやる!」 「…………」 「なんだよ伊織!こんなのムカつくだろ!なぁ一緒に犯人を」 「貴哉、しばらくは俺達一緒にいない方がいい」 「はぁ!?何言ってんだよ!」 「やっぱり俺達は付き合えないんだな」 「訳分かんねぇ!今はそんな話してる場合じゃねぇだろ!」 「貴哉、これからは何があっても俺に声をかけるな」 「テメェ!ふざけてんのか!」  誰だか知らねぇ奴に写真を盗撮されてばら撒かれた怒りで伊織の胸倉を掴んで睨む。伊織は目を合わせる事なく俺の手をパシッと払って屋上から出て行った。  は?なんだよあいつ?  なんで俺が伊織にあんな事言われなきゃなんねぇの?俺も被害者だよな?  残された俺はどうする事も出来ずにただ立ち尽くしていた。
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