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※諦めたと言えば嘘になるね
※詩音side
俺は葵くんと一緒に放送室で残りの休み時間を過ごしていた。
廊下が騒がしかったけど、ドアには鍵を掛けているから今は二人きりだった。
「あー、楽しかった♪まさかまた葵くんと馬鹿が出来るなんて思ってなかったな~」
「馬鹿などしていないだろう。それよりもいいのかあんな事を言って」
いつもと変わらない凛とした顔をして僕を見てくる葵くん。
そんな葵くんに僕はいつも通り笑って答えた。
「いいんだよ。あの二人を気に入らない部員がいるのは知っていたからね。他所から来たからって差別するような人間にいい作品が作れるとは思えないし、良い機会だと思っているよ」
「お前らしいな」
葵くんと僕は中学からの親友だ。それとボランティア部の渡辺梓もずっと一緒だった。
三人ずっと一緒。それもここまでだ。
僕は進路にずっと迷っていたけど、結局普通の大学へ進学する事に決めた。親と担任にはもっとレベルの高い大学に行けると言われたが、脚本家の夢を諦めきれないからそっちにも力を入れたいからね。自由にやる事にしたよ。
葵くんはもちろん有名大学を受験する予定だ。これは誰もが予想していただろうね。だって、あの葵くんに高卒や普通の大学なんて似合わないからね。
そして梓だ。梓は初めから農家をやっている家を継ぐと言っていたけど、大学ぐらいは行くと思っていたな。俺達も説得したけど、本人は高校を卒業したらすぐに農業をやるとの一点張り。
元々梓は自分の興味の無い事にはやる気を出さない性格だったから仕方ないのかもね。
そんな俺達仲良し三人組の残り少ない高校生活。
今回の騒ぎの中心はいーくんと貴哉くんだ。
もちろん何とかしてあげたい気持ちはあるよ。でも下手に出て行っても意味が無い事は分かってるからね。
こう言うのは葵くんに任せるのが一番さ。
だから僕は僕のやりたいようにやる。
ちょうど心残りだった演劇部の雰囲気に喝を入れるのに最適だなと思ったよ。
「葵くん、僕はズルいのかな」
「ああ。でも周りはそうは思わないだろうな。お前は演じるのが上手いからな」
「演じるだなんて……僕はいつでも素だよ」
「詩音、お前の素を知る者は私ぐらいだろう」
「……覚えてるんだ」
「当たり前だろう。それで、梓の事はもういいのか?」
「ふふ、諦めたと言えば嘘になるね。でももう諦めるよ。梓も好きな人といられて幸せそうだしね」
「そうか。ならもう一仕事してもらうぞ。これから一緒に失恋も吹っ切れるような事をしに行こうではないか」
「はいはい。お供しますよ会長様~」
失恋か……気持ちを伝えてもいないのに振られるなんて僕は何て弱虫なんだろう。
それでも好きな人には笑っていてもらいたい。
それが僕が選んだ答えだ。
その事を全部知っている葵くんは俺と梓と変わらず接してくれていた。
今更言える訳ない。
だって梓の隣には今彼がいるから……
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