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思い出した!お前紘夢か!
握られたままの手をギュッと強く握って、俺より少し背の高い一条を睨んで怒鳴ってやった。
不思議そうに見てくる一条に、俺は更に続けた。
「そんな捻くれた事しねぇで堂々と言えばいいじゃねぇか!父ちゃんにも、俺にも!そんなんじゃ本当に伝えたい事なんか伝わる訳ねぇだろ!」
「貴ちゃんには分からないよ。お母さんにあんなに愛されてる貴ちゃんにはね」
「あ?また訳の分からねぇ事言いやがって!」
「じゃあストレートに言ったら伝わるの?俺の気持ち」
「当たり前だ!」
「好き」
「はぁ?」
「貴ちゃんが好き。俺の物になって?」
「馬鹿やろー!ふざけてんのか!」
「本気だよ!俺はずっと貴ちゃんの事を想って生きて来たって言ったでしょ?ストレートに言えば伝わるって言ってたよね?どうなの?」
「ストレート過ぎんだ!」
「ところでさ、今どっちと付き合ってるの?いーくん?空くん?」
「るせぇ!教えねぇ!」
「ふーん。実はどっちとも付き合ってなかったりしてー?」
「何で知ってんだ!?」
「本当なんだー!貴ちゃん分かりやす!」
しまった!かまかけられたか!
やっぱりこいつを敵にするのは厄介だな。
何を言っても通じなそうだ。
「ふーん。それじゃあ貴ちゃんはどっちが好きなの?」
「知らね!」
「夏休み中の貴ちゃんの行動はスパイ達から聞いてるんだ♪前半は空くんと過ごしてたけど、後半は会わなくなっていーくんといるのが増えたらしいね。て事はいーくんを選んだのかな?」
「スパイって何だ!お前まだ巻き込んでる奴がいるのかよ!」
「ちゃんとお金渡してるし、脅してる訳じゃないから巻き込んだとか言わないで欲しいな~」
「お前やっぱりムカつく奴だな!」
こいつの言う事が理解出来なくて怒りをぶつけると、悲しそうな顔して笑った。
そして出したままのケーキの箱を丁寧に閉じてキッチンの方へ行き冷蔵庫に閉まってた。
リビングに残された俺はふとテーブルに散らばってるお菓子と出しっ放しの麦茶に目をやる。そして一条が持って来たDVDが目に入った。
当時流行ってたアニメ。ブラックキングの……そこには「正義の味方ジャスティスマン」と書いてあった。
あ、アニメの名前、ジャスティスマンだったのか!ここで気付いて何かが引っ掛かった。
「俺ブラックキングー!お前ジャスティスマンな!」
「あはは、ジャスティスマンって何?正義男?」
二人の笑い合う子供の会話がふと頭をよぎる。
何だっけ?凄く懐かしいジャスティスマンって名前……
ここでキッチンから戻って来た一条がDVDを見ていた俺に気付いて声を掛けて来た。
「貴ちゃん、俺今日は帰るよ。ゆっくりこのDVDでも見てよ」
「待て。ジャスティスマンって……」
「?」
確か一人で遊んでた俺には一緒にジャスティスマンごっこができなかった筈だ。でも誰かと一緒にやってた気がする。
もちろん俺は毎回ブラックキングをやった。
そいつは笑っていつも主役のジャスティスマンをやっていた。
もしあの頃一緒に遊んでたガキが本当に一条なら……
俺は一条をキッと見た。
俺の待てと言う言葉をそのまま受け取って待っている一条は俺の次の言葉を待っているようだった。
そして俺はまるで演劇部の練習でするみたいに、セリフを読むみたいに一条に言った。
「俺ブラックキング!お前は……ジャスティスマンな!」
「……ジャスティスマンって何?正義男?」
いきなりの俺の言葉に、一条は目を大きく開いて驚いた後、目に涙を浮かべて笑顔で答えた。
そして溢れる一条の涙。
あ、この顔も見覚えがある。
俺が引っ越す事になった前の日に遊んだ時にそいつが泣いたんだ。その時の顔が今ここにあった。
「思い出した!お前紘夢か!」
「うん!紘夢だよっ嬉しい!貴ちゃんにずっと会いたかった!」
泣きながら俺に抱き付いて来る紘夢。
うわー、一度思い出すと出て来る出て来る。こいつと遊んだ記憶。
断片的にではあるけど、その頃の俺は本当に一人だったから唯一の遊び相手に嬉しかったのを覚えている。
母ちゃんに迎えに来てもらう事が目的だったあの公園にも、いつの間にか紘夢に会う為に行ってたもんな。
そんで紘夢も毎日同じ時間にやって来ては一緒に遊んだ。
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