こんな荒技俺にしか効かねぇから使うんじゃねぇぞ!

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こんな荒技俺にしか効かねぇから使うんじゃねぇぞ!

 始業式が始まってても俺は一人で屋上でボーっとしていた。ポケットに入ってるスマホがずっと鳴ってるけど、手に取ることもせずにいた。  誰にも会いたくないし、話もしたくない。  こうして一人でいると考える事はばら撒かれた写真の事。  一体誰が何の目的であんな事を……  夏休み中の俺と伊織を隠し撮りしてヤバい写真をこんな風に……  空、見ちゃったかな……  あいつ泣くかな……  もう泣かせたくなかったのに、俺はどこまでも空を苦しめるんだな。  ごめん空。もう俺どうしたらいいか分かんねぇよ。  怒ってたはずなのに、ムカついてたはずなのに、悪い事をしたのは俺のはずなのに……  涙がポロポロ出て来た。 「秋山ー!ここかー!」 「!?」  校舎が静まり返ったからみんな体育館にいるもんだと思ってた所に、ドタバタと騒がしく屋上のドアが開かれて俺はビックリした。  慌ててドアの方を振り向くと、息を切らした茜と、その隣には涼しげな顔した桃山がいた。 「なん、で……お前らっ」 「ヤンキーが行くとこなんてここか体育館裏ぐらいだろー?な?俺の言った通りだろ?茜ぇ」 「秋山!大丈夫か!?何で電話に出ないんだよっ心配しただろ!」 「あ、茜ぇ!」  いつも通りの二人に俺の感情は爆発した。  今は怒りよりも悲しみが強く、ガキみたいに泣きじゃくって茜に抱き付いていた。  そんな俺に茜は優しく俺を抱き返して泣き止むまでずっと背中をさすってくれた。  桃山も今回だけは空気を読んでくれたのか、黙っていてくれた。  しばらくして、涙も収まったから茜から離れると、心配そうに見てくる茜と目が合って今度は恥ずかしくなった。 「恥ずかしがる事ないぞ?俺で良ければいつでも胸を貸す」 「いや、もう平気……」 「貴哉ぁ、朝来てビックリよ。俺らは知ってっからアレだけどさぁ」 「なぁ、秋山に心当たりはないのか?」 「……無い」 「いーくんファンがやった。これが妥当じゃね?」 「伊織のファン?」 「いーくんのお気に入りの貴哉に嫉妬してやったとかさー」 「それと、写真の中にバーベキュー大会の時のがあったんだ。あれは演劇部だけしか参加出来ない。ボランティア部もいたけど、秋山と桐原だけだ。犯人は大分絞り込めるけど、演劇部自体大所帯だからな……」 「な、なぁお前ら、何を話してるんだ?」 「何って、秋山を泣かした奴を探し出して懲らしめてやるんだ」 「俺がそいつ血祭りにしてやるから任せとけよ」 「お前ら……ううっありがとうっ」  二人の笑顔を見たらまた涙が込み上げて来やがった。まさか二人が俺の為にこんなに考えてくれてるなんて、嬉しすぎるだろ! 「もう泣くなよ秋山ぁ。な、なぁ、後輩が泣いたらどうしたらいいんだ?」 「茜は怖がらせるしか知らねぇもんな。こういう時はこうすんだっ♡」 「あひゃひゃ!やめろっ桃山!くすぐるなっ!」 「なるほど!本当に笑い出したぞ!」 「感心してんじゃねぇ!こんな荒技俺にしか効かねぇから使うんじゃねぇぞ!」  俺の脇腹をこちょこちょしてくる桃山から逃れて改めて二人に向き直る。  そして残った涙を拭いて俺も決心した。 「もう泣かねぇ!絶対犯人見つけて土下座して謝らせる!」 「おおー、いつもの秋山だー」 「って、二人とも始業式は?終わったのか?」 「んなの出てねぇよ。茜がそれよりも秋山だって言うからよ。俺はあんなむさ苦しい所嫌だし出るつもり無かったけどな」 「あのさ、朝秋山が桐原といるのを見たって聞いたんだけど、桐原はどうしたんだ?一緒じゃなかったのか?」 「知らねー!一緒に来たけど、いきなりどっか行った。あいつムカつくんだぜ!もう話しかけるなって言われた!」 「え、そんな事言ってたのか?」 「俺のせいで迷惑だとか思ってんじゃね?結局そういう奴だったんだよアイツは!」 「いや、いーくんが貴哉をそんな風に思うのは無いでしょ。いーくんの事だから何か考えがあるのかも」 「あったとしてもどーでもいいわ!こうして側にいてくれる奴のがいいもんねー」 「わっ甘えん坊だなぁ秋山は」  俺が茜に抱き付くと、驚きながらも照れてる声が聞こえて来た。  それを見てた桃山はすかさずスマホを出して連写していた。おいおい、何枚撮るんだよ。 「本当はさっき貴哉が泣いてる時に茜と抱き合ってるの撮りたかったんだからなっ」 「何威張ってんだよ。金取るぞ」 「秋山、今日はどうするんだ?そろそろ始業式が終わる頃だと思うけど」 「んー、帰るって言いたい所だけどよ、逃げたみたいでムカつくから教室行くよ。そんで犯人探す」 「あ、それなら学校が終わったら一緒に帰らないか?作戦会議をしよう!」 「茜、なんか楽しそうじゃね?貴哉は苦しんでるのにー」 「馬鹿な事を言うな!楽しそうと言うか、嬉しいんだ。秋山には世話になりっぱなしだから、力になれるかもしれないってな」 「茜大好き♡お前本当良い奴だな!」 「俺も秋山が大好きだぞ。秋山のクラスまで迎えに行くな」 「俺も行くー♪貴哉おめかしして待ってろよー」  相変わらずなバカップルだけど、今は二人のこのノリがちょうど良かった。  ありがとう茜、桃山。俺、絶対負けねぇからな!
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