本当は訳分かんなくてヤバかったけどな

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本当は訳分かんなくてヤバかったけどな

 茜と桃山の二人は俺を守るように両サイドに立って歩いてくれた。ここまでしなくても……少しでも周りの目から壁を作ってくれようとしてるみてぇだった。  だけど、見事に嫌われ者三人組が横に並んで歩いていて、余計に目立っているみたいですげぇ見られた。  気持ちは嬉しいけどな。  一年の教室がある廊下を歩いていると、茜が思い出したかのように言った。 「そう言えば早川に会ったぞ」 「え!なんか言ってたか!?」  そうだった!空もきっとあの写真は見てる筈だ!  あいつの事だから泣いてるんじゃねぇかって思ってたんだ! 「同じく心配していた。秋山を見つけたらお互い連絡をするって約束してたんだが、忘れていた」  あははと笑う茜。笑ってる場合かよっ!そこはちゃんとしてくれよ先輩!  悪気のない茜の笑顔に俺は心の中でツッコミを入れて、スマホを見る。そういやひっきりなしに鳴ってたな……  恐る恐る開くとそこには数件のメッセージと、何百件もの着信が表示されていて、開くのも恐ろしいのでそのまま閉じておいた。 「なんかやべー事になっちまったな」 「いいんじゃない。こういうの俺は好き」 「桃山てめぇなんて事言いやがるんだ!自分がこの立場になってみろよ!」 「むしろなりたいね。相手をボコっていい理由があるんだもん。ちょー楽しそうじゃん♡」 「秋山、気にするな。これでも湊は秋山の事を心配して……」 「ねぇだろ!楽しんでるだけじゃねぇか!」  ケラケラ笑う桃山にそこまで嫌な気はしない俺。今はいい。今はいつもの桃山でいてくれる事でいつも通りの俺でいられるからな。  それにしても空が心配してくれてたのか。早いとこ空と合流して様子見ねぇとな。 「あ、おい秋山」 「おー、噂をすれば」  二人が何かに気付いて前の方を見てポツリポツリと言った。  俺も前を見ると、空が息を切らしながらこちらに走って来ていた。  空を見た瞬間胸がキュッと締め付けられる思いだった。悪い事をしたのに、なんでかな、空がいてくれて、嬉しかった。 「貴哉ぁ!どこ行ってたんだよぉ!」 「え、屋上……」  あれ?てっきり抱き締められて泣かれるかと思ってたけど、なんか怒られた。  珍しく怒ってる空を見たら本当に悪い事をしたんだと申し訳なくなってきちまった。 「早川、すまない。連絡入れるの忘れてた」 「無事保護できたんだからいーだろ。ほら後はお前に任せるから。帰り俺らが迎えに行くからそれまで首輪して繋いでおけよー」  茜が今度は申し訳なさそうに言って、桃山がポンっと俺を押して空に引き渡した。って俺は犬か猫か!?  まぁ一応二人には助けられたけどな。 「茜、桃山……ありがとう!待ってるからな!」  二人は同時に笑って一年の廊下から消えた。  そして空に振り返る。  もうそこには怒ってる空はいなくて、優しい笑顔の空がいた。これも予想外で驚いた。 「貴哉、大丈夫か?」 「ああ、あいつらがいつも通りにしてくれたから……本当は訳分かんなくてヤバかったけどな」 「むむむっ!今すぐに抱き締めたいけどっ!我慢するからなっ!」  俺が正直に情けない事を言うと、両手を握りしめて少し震えている空。表情は何かを我慢しているような、悔しいような、でもどこか自信のあるような笑顔だった。  だから俺はニカっと笑って言ってやった。 「空……おう!頑張れ!」 「あーもう!まだ付き合ってれば今すぐに桐原さんを探し出して殴れたのに!」 「空、悪かったよ。また傷付けちまった……」 「もう慣れたよ。今さ、数馬とか中西とかが写真を回収してくれてんだ。全部は集め切れるか分かんねぇけど、出来る事をやろうって数馬が言い出したんだ。茜さんや桃さんも真っ先に貴哉を探してたし。みんながそんな感じなのに、一人で傷付いてられねぇだろ?そんなのダセェじゃん」 「……嘘、マジで?」  空の成長にも驚いたけど、みんなが動いてくれてる事に本気で驚いた。しかも誰よりも人混みが苦手なあの数馬がそんな事を言い出すなんて……  ふとまた涙腺が緩んだけど、ここはグッと堪えて俺は空と一緒に数馬達の所へ行く事にした。
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