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計画
僕はスイの思念に引っ張られるようにして、とぼとぼと歩いた。上手い方法が見つからなかったらどうなるんだろう。
やっぱり 死んじゃうのかな…
今日は晴れだから体育がある。マラソン大会の練習は、昨日の先生のアドバイスを試すつもりだった。算数の宿題だって、夜遅くまで頑張って仕上げたのに。
もう皆とサッカーも出来ないんだ。
ぼんやり考えていると少しずつ悲しくなってくる。
あと数時間で理解するより前にその時が訪れそうだ。橋の欄干から見下ろす水面は静かで、これから僕に起こることが嘘みたいに思えた。
澱みのない流れのようにスイが言った。
『星は幸せだよな』
「そう?」
自分ではわからない。パパもママも優しいけど、ゲーム機を持ってないのは仲間内では僕だけだ。買い食いは出来ないし門限も五時だし、塾は二つかけ持ちしている。
「僕より羨ましい生活してる人は、他にたくさんいると思うけど」
『わかってねえな』
苦笑するスイの顔が目に浮かぶようだ。
『仲のいい両親に愛されて、子どもの幸せなんてそれで十分なんだよ』
「そうなのかな」
『他のものは金で買える。だけど、気持ちはそうはいかない。その人に向けられた心からの想いは、特別なものだから』
お金で買えない大切なもの。
その人が僕を心から想ってくれる気持ち。
『子どもには何より必要なものだと、俺は思うよ』
急にさっきよりもっと悲しくなった。楽しかった日々を思い出して、それを失うことがリアルに感じられたからだ。
重くなった空気を払うようにスイは話題を変えた。
『ひとつ方法があるんだけど』
「何?」
『俺が身代わりになるんだ』
「えっ、ダメだよ! 何言ってるの」
『これは俺たち二人の協力が必要なんだ。それに、俺は余命宣告されている』
「でも…」
いくら病気で死ぬからって、代わりに事故に遭うなんてことがあっていいはずがない。
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