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黎明
それは突然のことだった。
「星。起きろ」
明け方にぶっきらぼうな声で揺り起こされた。時計は四時を過ぎたばかり。ぐっすり眠っていたのを邪魔されて僕は不機嫌になった。無視しているとまた声が聞こえた。
「おい、目を覚ませ。時間だ」
「…時間て、何の」
「手伝ってもらうぞ。言っておくが、お前に拒否権はないからな」
きょひけん?
耳慣れない言葉に少しずつ頭が働き出す。
カーテン越しの月明かりに立っているのは、全身黒ずくめの若い男性だった。長めの前髪と目力のある顔立ちは、女子が騒ぎそうなイケメンだ。
「とりあえずついて来い」
「どこに行くの」
「いいから。さっさと着替えろ」
うるさいなあ…
苛立ちとどこかで違和感を覚えながらも、どうせあとで着替えるんだし、と僕はベッドからのろのろ這い出した。夜明け前だから寒いかな。考えながら、プルオーバーのパーカーを頭から被った。
え 誰?
首をすぽんと出して、ようやくその意味にたどり着く。この人は僕の名前を知っている。それにどうやって部屋に入ったんだろう。寝る前にパパが戸締りをするはずだ。窓も閉まっている。
お化け…
不審者よりも真っ先にそのことが思い浮かんで、背中がぞわっとした。でも、彼にも足はあるし言葉も通じる。今のところ僕に危害を加えるような感じはない。
いや 待てよ
それとも連れ出してからどうにかするつもりなんだろうか。拒否権がないってことは、言う通りにしないと殺すという意味なのかな。そう思ったら改めて怖くなった。僕が黙り込んだのを見て、彼も察したのか口調が少し和らいだ。
「何も酷いことはしねえよ。二人でやらなきゃいけないことがある。お前の力が必要なんだ」
「どういうこと? それだけじゃ信用できないよ」
彼はやれやれというふうにため息をついた。
「小学二年生だろ。こんなに小賢しいなんて聞いてねえよ」
ぶつぶつ言いながら、彼はぼすっとベッドに乱暴に腰を下ろした。
「手短に言う。質問は後だ」
「うん」
「今日、お前は死ぬ」
「えっ、何で! 事故? 殺人事件?」
「質問は後だって言ったぞ」
「短すぎるよ!」
そんな話だなんて想像もしてなかった。
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