計画

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『いいんだ。俺は覚悟を決めた』  彼の凛とした口調に、はっとした。 スイにとって、この話は降って湧いたものではない。いくつもの選択肢で立ち止まり、歯がゆくて時に苦しい想いと戦って、何度も迷った上での決断なんだ。さっきから二人で話している内容も、たぶん彼が一度考えてきたことなんだろう。  僕を助けるために… 『これは契約だ。ここに来たのも俺の意思なんだ』 「何で? 会ったこともない僕のために」 『単なる俺の自己満足だよ』 「契約って…」 『エンジェル・プログラムって言うらしい。知ってるか。天使にも階級制度があるんだってさ。会社みたいだな』  スイはおかしそうにくすくす笑う。 天使は神の使いと(あが)められているけど、偉いのは上の方の七人ほどで、ヒエラルキーの底辺にいるヒラの天使たちは、亡くなる人間のところへ死期を告げに行く毎日を送っている。その時に一部の人間に提示されるのが天使計画(エンジェル・プログラム)だ。 『もうすぐ命が(つい)える者が誰かの願いを叶えれば、自分の罪が消えて命を延ばすことが出来る。天使の奴らのポイント稼ぎみたいなもんだけど、別に強制じゃない。ただ、俺の場合は時間をいじるから延命はチャラなんだって』 「罪って、悪いことをしたのはスイじゃなくてパパなんでしょ」 『その辺がややこしくてな。父親の業が俺とお前に降り掛かってるんだ。実際、死にかけてるのはあいつじゃなくて俺らだし』 「じゃあ、僕も同じことしてあげる。スイの病気が治るようにって」  スイは楽しそうに笑った。 『ありがとな。だけど、俺はもう死ぬことが決まっている。(せい)は自分のことだけ考えればいい』 「そんな…」 『そこはお前のせいじゃないし、むしろ俺たちは運命共同体なんだ』  それは兄弟だからってこと? 『俺たちの父親は過去にある罪を犯した。警察には捕まらなかったけど、の世界ではかなりの重罪だった』  打って変わって冷たく響くスイの声は、何だか怒っているみたいだ。ちょっと怯んだ僕は遠慮がちに尋ねた。 「それは、スイにも何か関係あるの」 『ああ』  だんだん核心に触れていくようでドキドキする。 「…パパは、スイに何をしたの」  (わず)かな沈黙のあとに、スイは少しずつ話しだした。
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