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このよるで、まぎらわせて。
叩くように勢いよく、玄関の扉を開けた。
「———…お!」
後ろからわたしの名前を呼ぶお母さんの声が聞こえたような気がしたけれど、振り返ることなくスマホだけを持って薄着で家を飛び出した。
——ああ、またやってしまった。また、無鉄砲に家出をしてしまった。
数時間後のことを考えると、すごく憂鬱な気持ちになる。だけど、いまは絶対に帰りたくない。帰るものか。帰っておいでってお願いされたって絶対に帰ってやんないもんね!…まあ、言われることもないけれど。
きらいだ。だいきらいだ。あんな人どうにかなってしまえばいいのに。
そんな、どす黒い気持ちを胸に抱えて住宅街を走った。呼吸は、運動不足のせいですぐに荒くなってしまう。
わたしの家を囲む周りのおうちの中は、どれも明かりがついていてすごく暖かそうなのに、その外側はとんでもなく寒い。
そりゃあ、そうだ。だってまだ3月だし。
なにせ、わたし薄着だし。
「せめて上着でも持ってくればよかったかな」
学習能力のない自分が本当に、嫌になる。大バカだなあ、と視界が歪んできたあたりで反省する。
———わかっている。わかっているのだ。
数時間後には100%わたしが悪くなくても、120%わたしが悪いふりをして謝らなければならない、ということくらい。
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