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「お前、一昨日、ちゃんとエスコートしなかっただろう」
「……そっ、それは、シャーロットが……」
「シャーロット嬢が?」
「……きっ、きれいで……」
パーティーのために新調したと分かるドレス。
胸元をさりげなく隠すネックレスは見たことのない輝きを放っていた。
すべてがシャーロットに似合っていた。
おまけに、結い上げた髪からはいい香りがした。
シャーロット・スタンホープ。
親同士が決めた、俺の婚約者。
見つめていると心臓が張り裂けそうになる。
可愛くて綺麗で、……腑抜けてしまいそうになるのは、俺だ。
そんな心中は絶対に誰にも言えない。誰にも、言ったことがない。
ぶはっ、とノアが吹き出した。何を察したかは知らないが、失礼な奴である。
「まさか自分の婚約者を直視できなくて壁の花にしたのか。馬鹿なのか? 馬鹿なのかお前は? 『魔王』の二つ名が泣くぞ」
「うるさい黙れぶん殴るぞ。二つ名は周りが勝手に言いだしたことだ」
「いやいや、そうじゃなくて。お前、昨日、シャーロット嬢より騎士姫と一緒にいただろう。あれがまずかった。あれのせいで、お前と騎士姫が相思相愛だって噂が流れている」
は?
……膝をつかなかったのは(部下たちが気絶しているとはいえ)なけなしのプライドのおかげである。
「誰だそんな噂を流した奴は。全員処刑してやる」
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