第一話

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 おひとりさまなのはわたくしだけ。  しかし誰も気にしていないのは、わたくしの婚約者が誰かを皆が知っているからです。  ジョシュア様をはじめとした騎士団の方々は、現在、魔物の森で人間に害なす魔物を退治しているということを。  わたくしの暮らすウェーランド王国が平和を保っていられるのは、隣国と平和協定を結び、共に定期的な魔物討伐を行っているからだそうです。  つまりジョシュア様たちが前線で頑張られているおかげで、わたくしは、こうしていちごのタルトを堪能できているという訳です。ありがたいことです。  ふくよかな香りの紅茶もいただき、すっかり満たされたところで、わたくしはカフェを後にしました。  街路樹は鮮やかな葉を茂らせ、風で静かに揺られています。  行き交う人々は楽しそうにおしゃべり。  道端では猫があくびをしていました。  そのままわたくしは石畳でできた通りをゆっくりと歩きます。  このトゥインクル通りは、顧客に貴族が多い王都の一等地です。つまり、流行の発信源。  時々店舗に入って帽子や靴を眺めたり、次に流行りそうな食べ物をチェックしたりするのも、休日の楽しみのひとつです。 「あら?」  ふとわたくしは気づきました。  道行く女性の胸元に輝くのは、きらきら眩しいペンダント。  どうやら透明感のあるペンダントが、今のトレンドのようです。
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