1人が本棚に入れています
本棚に追加
美波が言うには、前日アリサと遊んで帰って起きるとアリサのような白い髪色になっていたという。
その後、アリサと遊んだメンバーが続々と登校してきた。
全員、髪色がどこかしらアリサの髪色に似ている部分があった。
「あいつが、あいつと遊んだら髪が変になる。このままだと髪だけじゃ被害は収まらないかもしれない」
そんな馬鹿げたことを言い出した。
すぐに噂は広まり、常に周りにいた人がアリサから離れていった。
「そんなはずない。前の学校でそんなことはなかった」
アリサは純粋な子だ。
だからしっかり考えて、答えてしまう。その真っ向から歯向かわない言い方がある種の信憑性を引き出し噂を加速させてしまった。
僕はもちろんそんなはずないと思っていた。そんな事があったらもっと前に問題になっていたはずだし、第一、そんな人間はいない。
そういう当たり前のことに気付けない人が多すぎた。
「皆」という一つのグループに入っていない僕にはそれが分かる。
けれど「皆」に、入ってしまっている人たちは、分かっていても「みんながそういうならそうなんだろう」と、流されてしまい、まともな人間がいなくなる。
「天野アリサは天使じゃない」
そんな事を言った男子がいた。
皆、アリサの容姿を天使だと言っていたからだ。
その男子は続けてこうも言った。
「あれは堕天使だ」
*
「私、そんな力ないよ…」
そんな声が聞こえたのは噂が当たり前となり、アリサがいろんな人から外されてしまってから、約半年経った時だった。
冬になる少し前の夕暮れ時。
僕が帰る途中に使われていない空き教室から消えてしまいそうな声が聞こえてきた。
「誰か、誰か、気づいて…。この頭の悪い噂に」
アリサは「馬鹿」という言葉を
知らない。
汚い日本語を知らない。
それは良いのかもしれない。
けれど、伝えることのできない感情が彼女の心の奥底にある。
なんとなく、そんな気がして、少し見てしまった。
空き教室のドアから顔を出すと、たまたま目が合った。
これまで事務的な会話しかしてこなかった僕は何故、アリサの声だと分かったのだろうか。
覗いてからそんなことを思った。
「あ…」
アリサが呆然とした顔で僕を見る。
驚いた顔をしてから、悲しそうに眉を顰め少し微笑む。
「もう、帰らないとだよ」
その声が震えていた。
最初のコメントを投稿しよう!