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ただ、わたしの心には間違いなくゆとりがあった。
出雲琥太郎という存在だ。
" 琥太郎は彼女作らない主義だから、いつでも私と会ってくれるもんね "
みんなが続々と結婚しちゃっても、わたしには琥太郎がいるから大丈夫。
わたしはたいそう呑気なもので、昨日、寝る前にそんな話をした気がする。いや、たぶん、した。眠りに落ちる前に聞いた返事はどうだっただろう。琥太郎のことだから" はいはい "と、てきとうにあしらったに違いない。
おそらくこれが" 彼女作る宣言 "の引き金になったニュースの全容だ。言葉に並べると中々に薄い中身で申し訳ないが、これ以外に理由がさっぱり見当たらない。
フォークをくちに入れる。オススメだというガレットはもちろん美味しい。疲ればかりが溜まる日々の中、美味しいものを食べている時が一番幸せだ。でもわたしは、有名店のおすすめメニューよりも、今朝食べた、琥太郎がつくってくれたホットケーキのほうが美味しいと思う。
「琥太郎に彼女が出来たら、わたし、寂しくて死にそう……」
死にそうだけど、ガレットを頬張る。うん。美味しい。美味しいものによって、メンタルはやや回復傾向に向かう。周りをぐるりと見渡せば、オシャレな家具と洗練された空間があるので、さらに回復した。
──「彼女、つくろうかな」
しかし、例の言葉がリフレインすると、ソースの味が一瞬で味がしなくなる。琥太郎の馬鹿。
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