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また別の日。
家で鍋を囲んでいたとき、ふとゼロゼロの殺害方法を考え始めてしまった。あらゆる状況を想定してのシミュレーションが頭を巡り、私のポケットに忍ばせたナイフでゼロゼロを突き刺すことをイメージする。今なら不意打ちも可能かもしれない、と考える。しかし、結論は簡単に出てしまう――この状況では、外での散歩中とさほど違いはない。
目の前にいるゼロゼロは、くつろいだ表情を浮かべているが、それでも警戒心が消えているわけではない。どこか無防備なふりをしているが、ほんの一瞬であっても油断がない彼女には、こちらから仕掛ける余地が見当たらない。
「なしだな」と判断して、鍋に箸を戻す。温かい湯気が顔に触れて、ようやく日常に引き戻された気がする。
ゼロゼロが私をじっと見つめ、
「朱音、最近変だよ」
と唐突に言った。
「そう、かな?」
と、とぼけるように答えると、ゼロゼロは少し首をかしげて言葉を続けた。「なんか落ち着いていないというか、煙草の量も増えてるし」
彼女が咀嚼した肉を飲み込むと、さらに問いかけてきた。
「悩み事があるなら相談にのるけど」
その言葉に、思わず苦笑してしまう。ゼロゼロ、もしあなたが
「あなたを殺せと言われたので悩んでいる」
と相談を持ちかけられたら、どんな反応をするのだろう? そんな馬鹿げた想像が頭に浮かび、私はその思いを笑顔で覆い隠した。
「いや、大したことじゃないんだけど」
と適当にごまかし、
「そろそろテストだからさ、面倒くさいなって思って」
と軽く流した。ゼロゼロは「ふうん」と気のない返事をした。
「いいよね、レベル3には試験も何にもなくて」
私は軽口をたたいた。
「いいよー。朱音もレベル3になりなよ。今なら二匹くらいなら捕まえてあげるけど?」
と冗談めかした提案をしてくるゼロゼロに、私は軽く首を振りながら、
「いや、いいよ」
と応えた。
本当は、この生活が窮屈に感じ始めていることを言いたくてたまらなかった。殺すだの殺さないだの、そんなことばかり考え続ける日々に、私はじわじわと心を蝕まれていた。それならいっそ楽になろう。そう思ったとき、自然と視線がゼロゼロに向き、殺そうと決意した。
結局、可能性を一つずつ吟味していく中で、一番高確率なのは、ゼロゼロが夜寝静まった瞬間だという結論に達した。何の防備もなく眠りについている彼女を見つめていると、静寂が恐ろしいほどに響き渡る。その時間が唯一のチャンスなのだ。ゼロゼロは意外にも私よりも寝つきが早く、起きるのも遅い。それだけ彼女が熟睡しているという証だ。テレビの明かりが部屋をほのかに照らす中、ソファに寝そべるゼロゼロの姿が見える。彼女は横向きになりながらも、ついさっきまで見ていたテレビを眺め、そのまま眠りに落ちる。私が気づくと、彼女は毛布に包まれて静かに寝息を立てている。
そんなゼロゼロの無防備な姿を見ていると、さまざまな死のイメージが頭をよぎる。首を切られたゼロゼロの死体、心臓を一突きされたゼロゼロの死体、頭部を貫かれたゼロゼロの死体……その光景が私の頭の中で何度も繰り返され、ゼロゼロの死体が無数に積み重なっていくようだった。瞳孔が開き、口元からだらしなく血を流す彼女の顔、絶望に歪む表情、そして命が尽きていく瞬間。それぞれがどこか現実離れしていながらも、恐ろしいほどに鮮明だった。まるで、その死の情景に引き込まれるかのように、私の頭の中でゼロゼロの死が重ねられていく。
もちろん、逆に失敗したパターンも想像せずにはいられない。彼女に気づかれ、返り討ちに遭う可能性も高い。私が何度も襲いかかっては返り討ちにされる光景もまた、現実味を帯びて浮かび上がった。私の死体が山積みされ、全員が無念と諦めに満ちた表情を浮かべている。その一つ一つが、ゼロゼロの強さを物語っているかのようで、なんとも言えない気持ちになる。レベル3に挑むことが、どれだけ愚かしいことなのかが、皮肉なほどによく理解できた。
それでも、私の中でゼロゼロへの想いが完全に消えることはない。彼女を殺したいと思いながらも、同時に守りたいとも思ってしまう。そんな矛盾が私を蝕み、逃れられない泥沼に引きずり込んでいた。
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