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二人の天使
その昔、ある王国に二人の天使が住み着いていた。
眉目麗しい男女の天使である。
人々は天使を崇拝したが、彼らは人間を無視した。
天使は人の言葉を解さない。
天使は人の相手をしない。
二人の天使はいつも薄い笑みを浮かべ、王国の上空を昼も夜もなく飛び回っていた。
天使が地上へ降りてくるのは、火葬場から煙が上がった時のみである。
火葬場には大きな煙突が一つあった。天使はその天辺に降り立つと、煙が消えるまでその場から動かなかった。
━━━死者を導いていらっしゃるのだ。
人々は天使の行動をそう解釈し、涙を流した。
ある時、異国から一人の行商人がやって来た。
その行商人は、遠くの物を見ることが出来る不思議な眼鏡を王様に献上した。
王様は城の窓辺に立ち、その眼鏡で城下を見やった。
丁度、火葬場の煙突から煙が出ていた。
二人の天使が、煙突の天辺に立っている。
不敬とは思いつつも、王様は天使の方へ眼鏡を向けた。
ガシャン、という音がした。
王様が、眼鏡を床に落としたのだ。王様の顔は真っ青で、全身はガタガタと震えていた。近衛兵と召使いに支えられ、王様は謁見の間から姿を消した。
一人残された行商人は眼鏡を拾い上げると、王様が見ていたもの━━火葬場の煙突へ眼鏡を向けた。
「・・・ひっ」
行商人は短い悲鳴を上げた。
そこに映っていたのは、地獄の餓鬼もかくやという浅ましい表情で、人間の焼ける煙をちゅうちゅうと啜っている、二人の天使の姿だった。
半年後。
王国では火葬が禁止となり、火葬場は解体された。
二人の天使は火葬場が解体された後もしばらく王国の上空を彷徨っていたが、やがて何処かへと姿を消した。
<了>
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