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大切
話してみるとぶっきらぼうだけど単純な子で、勉強熱心な可愛い子だった。
「俺、留学したいんですよね。」
「そうなんだ。どこに行きたいとか決まってるの?」
よく学校では交換留学制度などを行っている。うちの大学では参加するにはペーパーテストと面接があるが、やる気と熱意があれば大学側も応援してくれる。
「いや、それはまだ。…とにかく家族から離れたくて…」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言う。独り言のつもりなのか、答えてもらいたくて言ったのか分かりにくいラインで、僕はその綺麗な顔をじっと見つめた。
「そっか。まあいろいろあるよね特にこの年頃はね。」
そう言うとほっとした表情になった。綺麗な容姿から大人びて見えるけれどこの子の中身はまだまだ思春期の悩める少年のようだった。
その次の面談からは彼方くんは来てくれるようになった。場所は僕の大学で、浅風や他のゼミ生の学生が担当している高校生も同様に大学で行うことになっていた。
「あ、来たね彼方くん」
「今日もこのあと英語教えて貰っていいですか?」
「ぜんぜんいいよ。」
そんな会話をしていたら浅風が近づいてきた。
「仲良いね2人。やるじゃん恋叶くん。」
そう言うと彼方くんの顔をじっと見つめる。
「やっぱり恋叶くんは面食いか〜。それにしても綺麗な子。」
そう言って彼方くんの顔に手を伸ばす。ほころんでいた表情がさっと固くなった。
「やめて。」
その手を僕は払い除ける。
「僕の大事な生徒だから。浅風みたいなやつに1番手出されたくない。」
容姿に反して繊細なこの子を適当な思いに晒させたくなかった。
「あはは。ごめんごめん。大事に思ってんだねその子のこと。」
「そりゃそうでしょ。」
キャリアサポートするっていうことはこの子の進路とか将来のことを一緒に考えるっていうことだ。まだまだ自分のことすらよく理解出来ていない高校生の子供に、自己理解させて将来に目を向けさせて大人に育てていく一端を担うってこと。
この子の成長に僕が責任持たなくちゃいけないんだ。
「じゃああっちの講義室行こうか。」
浅風が去ってからそう言って彼方くんの方を見ると、下を俯いていて表情が見えなかった。
「今日するのは最初の面談結果の確認。彼方くん前回休んでるから他のとこよりやること多いんだよね。」
広げた紙は教授がゼミ生全員に渡したもので、1回目の面談の時のアンケートがグラフ化されている。五角形のグラフが大きく載っていて、どんな分野が向いているとか、この性格にはこの仕事が合ってるいるとかの適正診断が書かれていた。
「まあ、こっちはいいとして…」
僕はもう1枚のA4の紙を眺めた。
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