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出会い
人気の多い公園に来て、ベンチに並んで座る。
強ばった表情のまま彼方くんは何も話そうとしなかった。
「男と女っていうのはどこまで行っても男と女だよね。」
大変だったねとかなんでこんなことになってるのとかそういうのの前に、その言葉が口をついて出た。
僕の体験談から来るただの感覚と客観的に見た感想だった。でもそれでもその言葉だけで彼方くんの言いたいことを僕が理解してるってわかったんだと思う。
彼方くんは悔しそうに「はい」とだけ返事した。
「母さん、精神病院通ってるんです。いつもはばあちゃん家に居るんですけど、今日は帰ってきてて。」
病気になってからあんな風なんです。
これまでの経緯を思い出すように言葉を紡ぐ。
性っていうのは残酷だ。
こういう時そう思う。
愛されたい。彼方くんはお母さんに対してそう思っているのに、母親の愛情は違う方向に矢印を指している。
成長を見守って欲しい、自分の味方でいて欲しい。そんな本当は揺いではいけないはずの存在が歪んでいる。不安定な存在になっているから彼方くんの感情も安定していないんだ。
だからこの子はこうなんだな。
ぎゅっと彼方くんを抱きしめる。
「え、」
びっくりしたように顔を上げる。
僕より一回り小さな体がどうしようもなく切なく愛しく感じる。
家族から離れたいという思いも、自分の綺麗な容姿を疎んでいることも、わかってあげられるのは、守ってあげられるのは今、僕だけなんだ。
「今日は僕の家泊まりなよ。自分の家、帰りたくないでしょ。」
そう言って頭を撫でると、彼方くんは素直に頷いた。
大丈夫。守ってみせるから。
人と人が関わると、その関係がハッピーエンドになるとは限らない。人が持つ感情はそれぞれだから何が悪いとかなくてもこうやって親子だって上手く関係を築けない。
思いの重さの違いで崩れる関係に、切なさを感じてきた。
それでも出会ってよかったって関われて良かったってそう思う出会いがあることも僕が君に教えてあげる。
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