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5年後
人里離れた山奥に似つかわしくない、真っ白な無機質の10階建てのビルが並ぶこの敷地はAiBS研究所。
そのうちの一つの入院棟の廊下を、ゆっくり歩いていく研究員3人。
マジックミラーになったその壁越しに、一人ひとりの容態を確認してはタブレットにデータを打ち込んでいく。
「―――最後は『眠り姫』ならぬ『Q5013』か。最近の容態は?」
「かれこれ5年か。今日の処置はこれからだ。今のところ安定しているが、身体は徐々に弱りつつある」
「そうか……。魔法と科学を融合したものに対しては魔法使いにも対応出来ないなんてさ、魔法も万能じゃないんだなって思い知らされたな」
「だけど『Q5013』の協力のおかげで脳の萎縮の発見とそれに対しての研究、延命治療の研究が進んで助かったな」
「魔法融合被験者に対しては大体『セカンドブレイン』を搭載していたからな。……来週、また対象者全員呼び出して経過観察のための精密検査だとさ」
「マジでか。検査、また俺らに回って来るのかぁ?俺、先月残業時間150時間超えているぞ」
「もうちょっと人材増やしてくれないかねぇ。出来れば若くて優秀で、AiBSに骨を埋めてもいいって言ってくれるような奴」
「……だけど優秀だけじゃなくて、人の心がある奴が良いな。俺らは新機能の研究にとりつかれているけど、これ以上研究の犠牲者が増えないように目を光らせてくれる奴さ」
もっともだ、と笑いながら真っ白な廊下を歩いていく研究員。
「人の心がある奴と言えば…彼はまた『Q5013』に会いに来ているのか?」
「あぁ。さっき受付で手続きしていたのを見かけたよ。彼もやるなぁ…5年だぜ」
「あれだろ?『Q5013』の為だけに作って欲しいと思う機能を考案したいって理由で、大学の休みのたびに住み込みで『Q5013』の世話をしに来ていたんだろ?その甲斐もあって、去年のジャイナ社のデザイン一般公募、特別賞貰ったんだよな」
「そうそう、愛だねぇ。おかげでジャイナ社から機能実装の業務提携の提案が来たって開発部から聞いたぞ。あ、ほらあれ見ろよ。眠り姫のそばに寄り添う王子様のようだぜ」
日当たりのよい部屋で、静かに眠る小さな少女。
そのベッドの横に座り、小枝のような手をさすりながら優しく語りかける青年。
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