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最初の出会いからかなりたくさん翔のいたずらを見てきたけれど、一番驚いたのがあたしの病室の天井をアクリル絵の具でコバルトブルーに塗った時のことだ。その事件が起こる前日あたしは何気なく翔に空を見るのが好きだと伝えた。だって、空を見ていたら、例え自分が一日のほとんどを病室で一人過ごしているとしても、空の向こう側から天使の笑い声が聞こえてきそうで、寂しくない気がするから。
でも、その話をした時、翔はそんなに話を聞いている風じゃなかった。
「ふーん」と言いながら漫画を読んでいて、だから天使の話も全くしないで、大して盛り上がることもなく会話は終わった。
それが、次の日、検査室から帰ってきたら、青く塗られた天井から絵具がぽたぽた床や布団や枕などにしたたり落ちていて、悪魔の仕業のような状況になっていた。そんな状況のなかで、手も頭もTシャツも青く染めた笑顔だけは天使の翔がこう言ったのだ。
「これでもっともっと空が見えるぞ」
ベッドの上に椅子をのせ、ぐらぐら足元が悪い中、途中で首が痛くなりながらも、百均で買ったという絵具で隙間なく塗られたコバルトブルーの天井は、間違いなく空だった。際限なく広く、自由で、今にも天使たちの笑い声が聞こえてきそうな、そんなわくわくする空だった。
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