【一寸先は】3.ボロチャリで残暑を走り切った

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【一寸先は】3.ボロチャリで残暑を走り切った

「ほへ……?」  ぼんやりと藍人が目を開くと、そこには全く見覚えのない天井があった。  ひんやりと涼しくて、気持ちがいい。 「……!!……!」  向こうの方で、誰かが何かを叫んでいるが、何を言っているのかがよくわからない。 (喉、痛――……) 「いっ…うぐ!…ごほ、ゴホゴホ、ごほ!」  喉だけではなかった。  腰も、腹の奥も、足の付け根も、とにかくあらゆるところが痛い。 「う、ぐ――……何の、罰ゲーム……?」  そこにあったクッション?に思い切り顔を埋め、痛みに震えながら、こんな状況に陥った理由を考えてみる。  覚えているのは、何故かHeatを起こしてぐだぐだになったところに、何故か葉刈颯が現れて、目の前で脱ぎ始めて、あろうことか、あの立派すぎる息子サマを藍人の中に突っ込んで――……。 (……いや、酷すぎる。あれは夢だろ)  いまいち、はっきり覚えていない。 (夢?妄想??)  ひとしきり一人で赤面し、 (絶対、頭がおかしくなってたんだ、俺……。いや、何で身体中痛い?……動けない)  藍人は芋虫よろしくソファの上でのたのたと足掻いた。    藍人が足掻いている部屋の隣にあるリビングのさらに向こう。 「話は終わりだ。契約通り俺は手を引くし、金銭面以外でも今後一切、援助はしない」 「颯さん!」  葉刈が来客時に使用している部屋の中では、葉刈とロックアーティストのKEN-Jのやり取りが続いていた。  やり取りと言っても、KEN-Jの支援をしていた葉刈が支援から一切の手を引く、と最後通告をしているに過ぎないのだが。 「今後、お前と関係者はこのマンションへの立ち入りも一切禁止」 「颯さん、聞いてって」  まだ業界では駆け出しのKEN-Jにとって葉刈のバックアップは何につけても都合の良いものだっただけに、あっさりと引き下がるわけにはいかないらしく随分と食い下がっていたが、葉刈は全くそれに応じるつもりはないようだった。 「早崎」  ついに本当の最後の一言が飛んだ。 「はーい、KENちゃん、そろそろ撤収どきだよ。はい、回れ右〜」 「颯さんってば……!」  子猫が親猫に首を咥えられて運ばれていくように、KEN-Jは早崎に襟元を引っ張られて行った。  バタン!  玄関から出た後もしばらく大きな声が聞こえていたがやがてそれは静かになり、数分もするとけろりとした表情で早崎が戻ってきた。
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