【一寸先は】1.一つ2,500円のサンドイッチは美味いのか

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【一寸先は】1.一つ2,500円のサンドイッチは美味いのか

「うちは、現金のみです」 「は?今どき?」  葉刈は形の良い眉を寄せ、マスクの中から滑舌の良いテノールを不満げに漏らした。  葉刈颯(はがり そう)。国内のα一族の御三家の一つ、葉刈一族の次男だが、実質後継者として扱われている。長男はすでに結婚し、海外で起業、そこそこの規模にまで会社を成長させているため、もう日本へ戻るつもりがないからだ。葉刈は表向きにはモデル・俳優業を挙げているが、一方では若くして一族が経営する大手企業の役員にも名を連ね、モデル業に隠れてほとんど知られていないが、実はそこそこの経営手腕も持つ優秀な人材だ。 「……ここ、コンビニだよね?別に、ローカルチェーンじゃないでしょ?」  駐車場には、がっつり全国版の大手コンビニチェーンのデカい看板がこれでもかと存在感を主張しながら鎮座しているというのに。 「コンビニですが、現金のみです。スマホ決済もクレジット決済もできません」 「いや、今どき、そんなコンビニないでしょ?ほら、その辺に使える電子マネーとか」  書いてある、とまで言わせてもらえずに、 「現金のみです!!」 「今どきコンビニ来るのに小銭持って出るやつ、そうそういねーだろ!」  どん!!  レジカウンターの中と外とで微妙な睨み合い勃発。  カウンターにはミネラルウォーターのペットボトルが3本と、そこそこいいお値段の、いいサイズのコンドームの箱が1箱、恥ずかしげもなく置かれている。  いや。  実際には、現金決済の顧客ならいっくらでもいるでしょうが、はい。  大手コンビニチェーンでスマホ決済もクレジット決済もできないとは確かに誰も思わないでしょう。 「あの」 「あ?何!」  後ろから恐々と声をかけられた葉刈は、イラつきをそのまま相手に投げ返した。 「あの、この時間は、現金だけになるんです。高橋さん、レジで操作ができないから」 「はあ?」 「ね、高橋さん」  当事者でもないのに困ったように苦笑しつつ首を傾げるのは、小綺麗な顔をしたどうみても一般人の青年だった。 「現金のみです」  満足そうにもう一度繰り返す老人は、確かに文明の利器をうまく使いこなせない年代かもしれない。  とは言え、だ。  どう転んでもコンビニのレジカウンターに立っていれば、アルバイトだろうがオーナーだろうがプロのスタッフ。  許されるかそんなもん。  だが。 「って、もーー面倒だな」  こんなところで一般人と揉めてネットで炎上するのも勘弁だ。  がくんと怒りのメーターが下がったところで、普段はほとんど現金など持ち歩かない葉刈がスマホで電話をかけようとした時だ。
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