【一寸先は】1.一つ2,500円のサンドイッチは美味いのか

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「高橋さん、これ、全部でいくら?」 「5,250円」 「ご……、うん。じゃあ、これも一緒に」 「5,480円」 「うん」  自分が持っていた見切り品のシールが貼られたサンドイッチを二つ一緒に計算させると、 「高橋さん、袋だけは1枚おまけしてよ?」 「いいよ」   青年は財布から紙幣と硬貨を取り出して支払いを済ませ、 「え、袋、2枚もいいの?」 「いいよ」 「ありがと」  得意そうに頷いた老人に礼を述べつつ、手早く袋に商品を分けて入れると、目を丸くしていた葉刈にその一つを手渡した。 「あのー……」 「は?」 「葉刈、颯さん、ですよね」 「あ」  葉刈は一気に我に返ると、 「君、スマホある?ごめん、電子マネーで返してもいい?」 「いつも、動画とか見てます!めちゃくちゃかっこいいです。頑張ってください!」 「おい、ちょっと……聴いてた?」  青年はぺこりと頭を下げ、逃げるように店を出ると、置いてあった自転車でとっとと行ってしまった。 「おいおいおい……ああ、ちょっと――くそ、チャリかよ。えと、高橋さん?」 「ん?」 「あいつの名前とか、連絡先、知ってる?」 「知らん」 「名前も?」 「時々この時間に買い物に来る子だけど、それ以外は知らん」  マジかよ。  こっちの素性も、買い物の中身も、モロバレなのに?? 「痛ってーな……」  たま〜にこうしてコンビニで買い物をしようとするとドツボにハマる。  元々はミネラルウォーターが欲しかっただけなのだが。気がついた時には近くのスーパーのシャッターが閉まってしまい、自動販売機には欲しい銘柄のものがない。  自宅から一番近いはずのコンビニは改装中、その次に近いはずのコンビニはなぜか最近閉店したらしく、敷地は真っ暗だったのだ。目当ての500ml一本450円のこの商品は、この時間帯ではこのコンビニチェーンか大手ドラッグストアでしか扱いがない。ドラッグストアはやや距離があるのでこうなったのだが。大人のお品は別にすぐに必要なものでも何でもないが、これはこれであまり取り扱っている店がなく、たまたま見つけたから買っておこうと思っただけだ。 「まあ?いいんだけどねえ……」  今更。 (あー。明日はまた荒れるかなー)  葉刈颯、深夜に大人な買い物発覚。深夜に逢瀬か!?  見出しまでわかりそーなもんだ。  呑気に心中で呟く葉刈だが、幼い頃から一族の帝王学的教育を受けてきたせいか、持っている度胸と図太さも半端ない。  現在超絶売れっ子のモデルは、ドラマや映画のオファーも増えている。  そこそこ多忙な仕事は趣味、と言い切って、裕福でプライベートな時間とその金を自分の快楽を追求することに使う葉刈にとって、多少のバッシングは(事務所にとってはそこそこの死活問題だが)何ということもないらしい。 (とりあえず、あいつ探すか。一般人に借りは作りたくない)  Mサイズのコンビニ袋を指に引っ掛けると、葉刈は店を後にした。
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