【一寸先は】1.一つ2,500円のサンドイッチは美味いのか

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(でも、いいか。本物見れて、話せたし🎵)  一生分の運を使い果たしたかもだけど。  アパートの駐輪場にボロ自転車を停めて鍵をかけると、今にも落ちそうな音をさせながら薄くなった鉄板の階段を上がる。  それでも、アパートの大家は1階に住む感じの良いまめな高齢女性で、古いなりに、風呂もトイレも台所も常に清潔にしてくれているのでありがたい。 「ただい、まあああぁ」  午前0:02帰宅。  それこそいつの時代?と言われそうな、押せば壊れそうな扉の鍵を回して我が家のドアを開くと、狭い畳の部屋が現れた。  狭くても、一応布団も枕もある我が家。流石に風呂は22時までという約束なので今日は諦めて、小さな冷蔵庫にサンドイッチをしまうと、エアコンのない部屋で9月下旬の布団に横になる。今年は涼しくなるのが早いようで、下手をすると夜は肌寒いこともある。 (今年も猛暑、乗り切った――――)  いや、マジで。自分を褒めてやりたい。良くもまあ、3年前に買った小さなポータブル扇風機だけで熱中症にもならずに乗り切ったもんだ。  こんなに根性がある青年だとは、見た目では絶対にわからないだろう。  今日も今日とて、バイト先で店長に呼ばれたかと思ったら「解雇」を言い渡されてしまった。既に恒例となったバイトの「不当解雇」は、他のバイトのタレコミで藍人がΩであることがバレてしまったからだ。なんだかんだ言って、Ωに対する偏見は多い。そうでなくても、いわゆるカースト最下層の下級Ωの貧しい生活ぶりを見ては「自分はまだマシ」と安心する人種がはっきり言って多すぎる。  そう。日本にカースト制度は存在しないが、それに似た日本版一般庶民の階級制度が黙認され、暗黙のうちに二次性によって区別をされているのが現実だ。はっきり言って、藍人は「カースト最下層の下級Ω」に他ならない。 (明日から、またバイト探しだなあ……)  そして、藍人にはすでにそれに対して食い下がる気力もない。 (葉刈さん、かっこよかったなー……写真、撮りたかったー)  ただし。  本人はいたって前向きで、大して世の中を恨むこともない。というよりも、誰かを恨んでも自分が幸せになるなんてこれっぽっちも思っていないので、ポジティブ?楽観的?いや、マイペース。  それでも今日は、ちょっとだけいいことがあった、と藍人は小さく笑うと、静かな寝息を立て始めた。
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