【一寸先は】8.孤軍奮闘とは

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【一寸先は】8.孤軍奮闘とは

 ここしばらく、藍人の生活は異次元を極めている。ある日は大学が終わると葉刈の自宅に呼ばれて遅い夕食を一緒にとり、下手をすればお泊まりコース(葉刈とは別部屋で健全な)、ある日は撮影が終わった葉刈と合流して外食と夜の台本読みに付き合い。 「キョロキョロすんな。座ってこれ食ってろ。早崎、味噌汁やって」 「はいはい〜。ちょっと待っててよ〜」  今日は土曜日だが、藍人は今朝も朝6時から葉刈の撮影現場に呼ばれ、準備を終えてチェアにかけて撮影の開始を待っている葉刈の隣にちょこんと座ると、手渡された手作り感満載の大きなおにぎりを子どものように両手に一つずつ持っていた。 「俺だけ、ですか。葉刈さんは?」 「来る前に食った。この状況で今から食えねーだろ」 「あ、そうか。そうですね」 「ん」 「撮影、見に行っていいですか」 「それ全部食ったらな」  とあるインテリアデザイナーのオフィスと、実在する有名ホテルが舞台になっているコメディタッチの恋愛ドラマは、通常の半分の期間の短期ドラマらしい。  実はキャストも豪華だ。俳優からお笑い系まで、売れっ子がこれでもかと起用されていて、藍人が見るところ見るところに見たことのある俳優やタレントが歩いている。  その中でも葉刈は異質なくらいにその存在感を放っていて、撮影が始まってもう数日になるが、連日朝一から挨拶に訪れる人間が少なくないが、実はそれが俳優やその関係者ばかりでないことを当然藍人が知るはずもない。 「おはようございます」  ふと藍人が顔を上げると、 (羽多中春奈さん!)  主人公を演じる葉刈の恋のお相手、ここ最近人気爆上がり中の二重クッキリ、綺麗系女性俳優が立っていた。  小柄で知的な雰囲気の彼女は、医師や弁護士、検事の役周りが多く、今回はバリバリのキャリアウーマンの設定らしい。 「お久しぶりです、葉刈さん。今回もよろしくお願いします」 「どうも。こちらこそ。よろしくお願いします」  葉刈が立ち上がって軽く会釈をすると、羽多中はちらりと藍人を見、何も言わずに通り過ぎて行った。  はあ、と藍人は思わずため息をついていた。 「何だよ」 「めっちゃくちゃきれいな人ですねえ……」 「お前、さっきもそれ言ってただろ」 「今里美緒さんですか」 「そう、それ」 「だって、ほんとにめっちゃくちゃ綺麗でいい匂いしてたし」 「それ、お前が言う?」 「へ?」
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