780人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕ら関係者とは少し違う位置付けの子なんでね、葉刈の判断で挨拶には行かせてないんです。邪魔はさせませんから」
『関係者とは違う位置付け』に波多中はいくらか反応を示したが、『葉刈の判断で挨拶には行かせていない』でやや眉を顰めた。
「そうなんですね、てっきり付き人の方かと思って」
「いや、全然違いますよ」
じゃあ、なんだ??
とツッコミどころ満載なやり取りだが、波多中はそのまま向こうから呼ばれて行ってしまった。
「……早崎さん」
むぐ、と口の中身を飲み込んだ藍人が隣のイケメンを見上げた。
「謝らなくていいですか。確かに、俺、今かなり場違いですよね。葉刈さんや早崎さんが変な風に思われても困るし、これ食べたら、葉刈さんに断って帰り……」
「あの子はねえ、歳は颯の一つ下かなー、最近一緒に仕事することが多かったんだよね。遅咲きっちゃ遅咲きで、とにかく今は表に出たいんだよ。ついでに、颯のことをかーなーり気に入ってるみたいでさ、今までも個人的にちょこちょこ颯にアプローチしたり颯に近づく男女を威嚇してたみたいな話は聞いたことがあるけど、颯は全く相手にしてないんだよね」
まあ、どっちかって言うと、颯はああいうの嫌うんだよねー、存在感も雰囲気も全く役不足だよねー、と早崎は笑いながらあっさりと毒を吐いたが、
(どこが役不足?)
と藍人にはいまいちよくわからなかった。
「何か嫌なこと言われなかった?」
「や、別に」
もぐ、ごくん。
「言われてません」
幸か不幸か、人に無視をされたり罵倒されたり人格を否定されることには慣れている藍人にとって、自分がどうこう思うことは全くないが、
(やっぱ俺なんかが近くにいたって、葉刈さんにいいことないよなー)
仕事の関係者ではない。あくまで個人的なアルバイトの関係だなどといちいち説明して回るわけにも行かない。
自分がここにいることで、本来必要のない迷惑を被るのは葉刈なのだから。
「あー、ごめんね、僕がここにいられればいいんだだけど。もう少ししたら、一旦颯が戻ってくるからね」
早崎はスマホを耳に当てて応答すると、また向こうへ行ってしまった。
もぐ、もぐ、……ごくん。
最後の一口を飲み込んだ藍人は、そっと立ち上がった。
向こうで、カメラやスタッフに取り囲まれて演技をしている葉刈と波多中が見えた。
(めちゃくちゃ似合いのカップルじゃん)
数十人の中にいても、葉刈はずば抜けて輝いている。
最初のコメントを投稿しよう!