【一寸先は】8.孤軍奮闘とは

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(さっすが葉刈さん。かっこいいよなー。せっかくだしもう少し近くで見たい。……けど)  ちょっと、気が引ける。  後ろを通り過ぎる何人かの俳優の視線を感じた藍人は、「ふむ」と一瞬首を傾げて宙を見ると、スマホを取り出した。 (?叔父さん?)  着信は叔父からだった。  気づいた時にはすでに「不在応答」となっていて、電話は切れていた。  叔父の家で厄介になっていた時にも対して話をすることもなかったが、家を出てからは藍人から連絡をすることも、叔父夫妻から連絡が入ることもなかった。 (……何か、嫌な予感がする)  ぞ、と背中が冷たくなったのは何故だろう。  かけ直そうとは思わなかった。本当に必要な用事なら、向こうからかけてくるだろう。  くすくす、と向こう側で笑い声が聞こえ、藍人が顔を上げると先ほどとは違う俳優数人がこちらを見ながら通り過ぎていく。  被害妄想と言えなくもないが。 「あ」  そうでないという確証もない。  とりあえず、帰ろう。うん。    たたたた、たた、――――……たん。  送信。 「っし」  とりあえず藍人は、葉刈の方向を向いて一礼すると、くるりと後ろを向いて駆け出した。  おにぎりと味噌汁、ごちそうさまでした。  めちゃくちゃうまかったです。  すみません。  ここでは多分何も手伝えないし、俺、場違いみたいなので、一度帰ります。  自宅で待機してます。  ぎ、ギコ!ガシャン!!  いつもの廃車寸前の自転車のロックを外し、スタンドを跳ね上げると、藍人はものすごい音をさせてペダルを漕ぎ始めた。 「せっかくだから、ちょっと見たかったけど」 (――仕方ない。テレビで見ればいいか)  とにかく。  俺のせいで、葉刈さんが迷惑を被ったら大変なことだし、そっちの方が断然困る。  葉刈さんの近くに俺がいて、足を引っ張ることがあっても、  いいことなんかあるはずがない。  葉刈さんは俺にとって、神様みたいな人で、  そんな人に、迷惑かけれるか。  青信号で、自転車用横断帯を渡り始めた時だった。 (え?)  右側から、信号を無視して左折してきた車が見えた。  キキイッ!!  ギコギコギコ!ギ、ギイイ!! 「う、わ!あれ!?」  キイイイイ――……、  どん!!  ガシャ!ガシャン!! (ブレーキ、の、ワイヤーが……)    切れた。
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