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【一寸先は】2.減るもんじゃ、ないって!?
「マジで?俺が行っていいの?」
『いや、空いてるなら来てよ。日給9,000円。ちょうど急に二人欠員が出てさ、マネさんに聞いたら絶対来てって。とりあえず今日の11時、Neon Fluxね。昼は出るし、あー、地図と電子パス送っとくからさ、入り口でそれ見せたら入れるから』
「サンキュ、絶対に行く!」
葉刈の大人な買い物の代金まで支払い、結果自分用のサンドイッチの金額が一つ2,500円強になった夜から3日目の土曜の8:32。
藍人は友達の森野洋平からの電話で起きると、一気に覚醒した。
(マジか)
バンドのライブ準備らしいが、聞いた通り、欠員が出て森野が人探しに奔走していたらしい。
極貧生活を送っている藍人が普段そんなところに出入りしているわけではないのでいまいち勝手はわからないが、今の財布の中身を考えると、日給9,000円は行くしかない。
タオルと洗面具を引っ掴んで慌ててシャワーを浴びると一番綺麗なTシャツとパンツを履き、「まだ使うか!」と森野に散々ツッこまれた、くたびれたバックパックに年季の入った水筒(中は常温の水)とタオル、大して中身の入っていない財布を突っ込んで、これまたくたびれたスニーカーに足を突っ込んだ(一応、数日前に洗濯をしたので見た目は洗いざらし)。
「えーと、駅は……G駅か。チャリなら45分、間に合う!」
自転車で1時間圏内は、基本的に公共交通機関は使わない。
地下鉄代を節約するのは藍人にとっては日常のことで、いつものように藍人はボロ自転車の鍵を鍵を取り出して、レッツ搭乗。
(あっちー……)
軋み音なのか、部品がぶっ飛びかけている音なのかすらもはやわからないような派手な音を立てながら「おいおい、その先で壊れるんじゃないか」という表情の通行人などお構いなし、「マジかよ、歩道走れよ」という表情のドライバーには「一応軽車両なんで」と何となく頭を下げつつ爆走するわけだ。
涼しくなったとは言っても、日中の気温はまだまだ30度以上の中を爆走し、汗だくになった藍人の現場入りは10:52。
「おま、またチャリで爆走したの?」
当然驚愕の表情を浮かべた森野は慌ててうちわを取り出すと、藍人に向かって大きく風を送り始めた。
「は――、はあ、ゼェ……って、時間、あった、から」
「あのなあ、まだ31度よ?熱中症やべーだろが!」
「乗り切った――……」
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