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「乗り切ってねえわ、アホか!もー、すげー汗!その顔だから許されんだぞお前?仕事始める前にくたばんなよ??」
顔はさておき、くたばるな、はもっともだ。
「森野ー、この辺の、中入れといてー」
「あ、はーい」
森野はいい返事をすると、すぐに息を切らしている藍人に顔を近づけた。
「わかってると思うけどな、思いっきり肉体労働だかんな」
「うん、多分平気」
「お前、いつもチャリ移動してるからそこそこ体力はあるけどさ、まさかこの距離を走ってくるとは……大丈夫かね……」
しばらく森野は団扇で藍人を仰いでいたが、流石に11時になると仕事を始めたようだった。
Neon Fluxは、この辺りでは老舗のライブハウスだが、近頃収益確保が困難になり存続が危ういと聞いた地元出身の人気アーティストが、3日間でチャリティーイベントを行うらしい。森野はなぜかこの手の知り合いが多く、そうでなくても顔が広いため、何かと重宝されるのだろう。
(へー。すっごい荷物……)
大きなトラックが横付けされ、次々と荷物が下ろされる。
「あー、そこの!おい、そこのほら茶髪の細いの!」
「へ?」
(俺?)
藍人が顔を上げると、
「お前お前。ちょい、そこのドリンク、控え室に持ってって」
「へ?」
「KENーJさんがいるから。奥の緑のプレートがかかってるとこな」
「はいー」
ドリンク。
どう見ても、ソフトドリンクじゃない。酒だ、酒。
それも、藍人は見たことがないような、外国語のラベルしか貼られていない瓶だの、瓶だの、瓶だの。
(仕事の前に飲んじゃうのか?……まあ、そういう世界なのかな。てか、世の中に酒ってありすぎだろ……、重!!)
缶ならまだしも、なぜ瓶だ??
一箱あたり何本入っているのかよくわからない段ボールを無理やり持ち上げ(当然、底が抜けそう)どうにか階段をおり、息を切らしながら緑のプレートを探す。
(って、一番奥か!!)
先は長い。
薄暗い通路の一番向こうに見えた、緑のプレートがかかるドアに向かってジリジリと荷物を動かしていると、
「おいおい、よく持てんな、その細っそい腕で」
筋肉ムキムキのスタッフが、それこそどデカい機材だの荷物だのを肩に担いで藍人の後を通り抜けていく。
本当に、同じ男性なのに、Ωというだけでこう、体が華奢な作りになるのはなぜなんだろう。
「お待たせしまし……」
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