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自分を抱え上げたのは、おそらくαだ。びく、と体が反応し、一気にフェロモンが流れ始めたのが自分でもわかる。同時に、αの気配に反応して、体が濡れ始めた。
(最、悪……っ、こんな、醜態晒して――……)
何とかしないと!!
藍人本人は全身全霊もがいているつもりだが、はっきり言って多少体が揺れているだけだ。
「汗だくだな。とりあえず、ここじゃダメだ。俺の車で休ませるから」
聞いたことのある声だが、すでに藍人の頭はモヤがかかったように朦朧とし始めている。
(抑制剤、飲まなきゃまずいって――)
気持ちはじたばた。
「ほらほら、暴れんな暴れんな。大丈夫だから」
一応抵抗している風にはなっていたらしい。宥めるような声と共に、ぺしぺしと抱かれた背中を叩かれた。
何が大丈夫だ。
仕事もしないうちに、突発のHeat起こしてα感じて醜態晒して、こんなの冗談じゃない!
「あの、いいんですか颯さん?」
「勝手に他人の二次性晒し上げてんじゃねえよ」
え、と相手は慌てたようだった
「いいよ。俺んとこが今一番冷えてんだろ。あー、早崎」
「あいー」
「しばらくこの子中で休ませるから」
「へいへい。どうせ中にいんの響ちゃんだけでしょ」
「で」
「まだあんの?」
「後でKEN、俺んとこよこせ」
低く、凍りつくようなそれに、マネージャーは身震いをした。
やべーぞ、KENーJ。何やらかした??
「言っとく。……響ちゃーん、3時間くらい、ちょいそこのホテルのスイーツビュッフェ行ってきてー」
マネージャーの一声で、大型のバンの中からはピョコりと綺麗系女子が顔を出した。
「経費で上げとくからさ」
「やったー。颯ちゃんも行く?」
「颯は、車で別の用事があんの」
「へーい」
「はい、退け退け」
何かを抱えた長身モデルが身を屈めてバンの中へ入っていくと、一瞬周りはしん、と静まり返ったが、すぐに何もなかったように現場は動き始めた。
「そっちのそれ、先に入れちまって」
「あ、そっち数足りねえ」
「さ、ってと。おい。生きてる?」
冷えたバンに乗り込み、中からロックをかけると、葉刈は腕に抱いていた汗だくの細い体をそっとシートに横たえた。
「う、っ」
ガタガタと体を震わせ、明らかに濃すぎるフェロモンの香りをぶちまけている目の前のΩに、葉刈はふと目を細めた。
「……あれ、お前」
どこかで見たことがあるような。
「う……」
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