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★ ★  「トール……!」  イオは、己の腕に飛び込んできた、愛おしい青年を抱き()めた。  互いの存在を確かめるように長めの抱擁をした(のち)、彼は(おもむろ)にトールを姫抱きにした。 「わ、イオ」  吃驚して身じろぎをする。 「ん?」  こんな女の子を抱き上げるような抱き方……どう考えても恥ずかしい……。  しかし、イオは当然のような顔をしている。 「重いでしょ!」  言えなくて、別の言い訳を考えた。 「重くない」  失敗だった。  どちらかと言えば、身長も低く細身のトール。体格の良いイオは軽々と抱き上げていて、全く理由にならなかった。 「は、恥ずかしい……」  仕方なく小さな声で本音を言ってみる。しかし、言ったところで降ろしても貰えなかった。 「花嫁を我らの家にお連れするのは、これが相応しかろう?」 「は、花嫁? だれが?」  一瞬意味がわからず、きょろきょろ周りを見てしまう。 「何処見てる、お前のことだ」  耳許で甘く囁かれる。  は?   ボクが花嫁?!  なに言いだすんだ~~!!  ぱくぱくと口を開けるが言葉にならない。  その口に透かさず、ちゅっと口づけをされた。 『父親』ではなくなったイオは、あからさまに愛を示す。その甘さに、胸がむずむずしてしまう。  イオはゆっくりと花畑を歩いてゆく。トールはしばらく、降ろせーっとじたばたしていたが、そのうち諦めてイオに身体を預けた。  花畑を抜け、現れた家は、トールの生まれ育った家を思い起こさせる。素朴で小ぢんまりとした家。  扉を前にしても、イオはトールを降ろさない。 「ここがお前の新しい家だ」  そのまま内に入り、部屋の奥にある二人掛けの長椅子に降ろされた。  イオが眼の前に跪いた。トールの右手を取り、その甲に口づける。 「愛しい花嫁、ここで俺とずっと一緒に。死が二人を別つまで」  それはまるで、本当に結婚の誓いのような言葉だった。  わっわっーっっ。  もう、やめて~~。  イオ、人格(キャラ)変わってる~。  一人称も前に戻ってるし~。  ずっと一緒にという言葉も、彼の愛も嬉しい。でも、どうにも慣れなくて、小っ恥ずかしい。 「花嫁じゃない~~ボク、男~~」  やっとそれだけを言えたが、イオは、ハハハと笑いながら炊事場の奥へ消えて行った。  そこに貯蔵庫があるのか、瓶を片手に現れた。それをグラスに注ぐ。透明なグラスが、赤紫に染まるのが遠眼からも見えた。  グラスを持ってこちらに戻ってくる。 「それは?」 「そろそろ辿り着く頃だと思ってな。裏で栽培している葡萄でジュースを作ってみた」 「とうとう、栽培まで……」
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