終点は始点である

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終点は始点である

 長崎県民は何もかもここが始まりだと思っているが、実のところは終点である。 線路はどこまでも続かないことを知っているが、ここが始まりやもんと言ってしまえる呑気な県民なのだ。 司は、頭の中の地図を絵にしてみた。 懐から筆を取り出してさらさらり。 今どき筆を携帯している日本人はあまりいないだろう。 「ここはだいたいこうなってこうか?うん?」d80238ba-d405-4cfd-b0b0-1cabd59f5e60 「ダメなもんば見せられてしもうた」 幸は眉間にちょっとしわを作って、別の地図を作成していた。 正しい判断だ。  幸は、ある石碑を指さした。 ここまで徒歩で一時間。 長崎市内は比較的コンパクトであるから、とことこ走っていく電車に乗れば数分で済む。 だが司にはその選択肢はない。 幸は司の手をとってその碑にぺたぺたと触らせた。 「幸、こいは何か由緒正しかまじないか?」 「ううん。マーキングよ、深か意味はなか」 はたから見れば観光客に見えるだろう。 市民は観光客には優しいので、二人も温かく見守ってもらえる。  そのうち幸がきょろきょろと何かを探し始める。 親切そうな通りすがりのおばさんに捕まって何やら話していたが、幸は膝をつかんばかりにがっかりして戻ってきた。 「私が大学時代に通いよった喫茶店はもう閉店になっとった。でも本店はまだあるけん……」 司は、大学時代の幸に出逢えていたなら違った人生が送れただろうかといつも考える。 幼いときであれば公園の砂場でお山を作って遊んであげる仲でしかなかっただろうし、学生と社会人だったとしても、同じ風景を見られなかったかもしれない。 十歳の年の差を考えると、今のこの時点が最適なのだ。  司はしょんぼりした幸の手を取る。 「おいたちは歩いて行くしかなか」 いや、タクシーにだって電車にだって乗ればいいのだが、教会で蘇生してもらわなくてはならなくなるだけだ。 幸はかばんから紙を引っ張り出す。 司は三枚ある超大作の一端を渡され、繋ぎ合わされるのを待った。 思いっ切り北海道や四国が見える。 シュガーロードは九州で完結するはずだが、こんな時の幸には何も指摘してはならない。 日本はどこまでも繋がっているのだ。 「トルコライスとミルクセーキがまっとるばい!」 幸は立ち直って司の手を引っ張る。 旅はまだ始まったばかりだ。 【シュガーロード~幸~】 https://estar.jp/novels/26286974 山口そらさん著の幸視点のお話です。 ↑地図がどういうことになっているかはこちらにあります。 ce21b227-8a2a-476f-be6a-27ae454bf412トルコライスは飲み物、ミルクセーキは食べ物。
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