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まだまだあるよ
幸は力強く前進した。
トルコライスとミルクセーキのためである。
喫茶店までは時間はそれほどかからなかった。
九州最古といわれるレトロな店だ。
大人のお子さまランチとよばれる、ピラフにナポリタン、トンカツにカレーが一皿に集合した逸品。
どれも司の好物、そして長崎らしい甘めの味つけ。
司のウキウキっぷりは半端ない。
幸もしっかりと食すタイプなので、問題なく皿を綺麗にしていく。
食べるタイプのミルクセーキもしゃくしゃくとキャベツを食べる青虫のような音を立てて、しっかりと腹の中に収めた。
(うろ覚えなので遠くから見てください)
「司ちゃん、他に長崎で思い出の味はあると?」
トルコライスとミルクセーキを食べながら、平然と他の食べ物の話をできる幸はツワモノである。
「あるよー。ビッグパフェと十二段ソフトクリームとまんじゅう」
幸は自らの胃腸に問いかける。
この上に数十センチのパフェを収納する余裕はあるか。
「ビッグパフェは無理やな。ソフトクリームとまんじゅうは入らんこともなか」
さすがに腹が心配になったらしい司が助け舟を出してくれた。
幸の好奇心がむくむくと起き出す。
「甘ーか思い出でもある?」
「まさか。あの暗黒の学生時代ばい。しょっぱか」
司は苦笑と懐かしさが入り混じった表情だ。
「昔は部活のランニング中は水は持ち歩かんやったけんな。でもランニングコースは坂と階段含む十三キロ超えでな。夏休みは二十キロとかもあったな。ちょこーっと道ば外れたとこに店のあったもんやけん、ようさぼって食べよった」
「司ちゃん不良~」
「まともに走ったら体調不良で死ぬさ」
「まんじゅうは?」
「ものすごか甘党の先輩のおってな。まあ厳しかったよ、内股やったけど」
内股に何の関係があるのだろう。
幸は首を傾げたが、司は話を続けた。
「もう無理、これ以上はもたんっていうくらいへばっとるときにな、いつもよりもっと内股になってもじもじってしてな。何するとやろって思うとったら、まんじゅうば出してくれるとさ。ポケットとか懐とか、どこかようわからんとこから。羊羹の時もあったけど、まんじゅうの方が美味かったな。あそこのまんじゅうはいつも蒸したてやけど、先輩んとはもういいかげん時間のたっとるとさ。でも体温でほかほかしとって」
「司ちゃん!そのソフトとまんじゅう食べにいこう!」
「反対方向ぞ?」
「道は繋がっとるけん」
(ぼんやりした思い出のため、100mくらい離れて見てください)
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