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いくぞぽんぽんの限界まで
辿り着いた懐かしいお好み焼きの店で十二段ソフトクリームを注文する。
ひとつだけ。
トルコライスとミルクセーキを収納した後の腹には優しくない食べ物だ。
さすがの幸と司でも分け合うのが正解だろう。
「おおう、そっちにいくばい」
「あ、あっちにやりすぎたー」
速やかに交互に押し戻す。
限りなく甘いシーンであるはずだが、斜塔修復大会のような緊張感をはらんでいた。
「なかなかハードやったな。次は柔かしぬくかぞ」
いくら長い残暑に悩まされた後だろうが、目指すまんじゅうがあたたかろうが、本来初冬と言っていい季節だ。
冷たくなった手をお互いの体温で温めながらひたすら歩く。
この間、結構な距離がある。
まんじゅうと大きく書かれた看板が見えてきた時は、さすがに二人とも歓喜にふるえた。
店からはまんじゅうの香りと湯気が立ち昇っている。
「ぬっかーーーー」
二人して店の中で深呼吸をする。
「10個ください」
○○まんじゅうなどと注文しなくても、それで通じるのである。
まんじゅう一筋の店なのだ。
そして蒸したてのまんじゅうが包み紙に巻かれてもう司の手の中にある。
「司ちゃん!10個?!」
「3個くらいは一気に食べきるさ。ちょっと歩いてあと2個。全然問題なか。幸が食べきらんやったら俺が食べてしまうけんよかやろ」
「食べんとは言うとらん」
負けず嫌いの幸が食べきれないはずはないことを、司はよく知っている。
先輩の怪しいポケットの中から出たものではないまんじゅうは絶品である。
「あれはあれで美味かったけどな。1個80円やし、ケーキ買う思いすれば安かやろ」
温かくてふかふかの薄い皮にたっぷりのこしあん。
甘くても甘さをそこまで感じないのは、もうすでに長崎名物をしこたま詰めこんでいるからかもしれない。(湯気というよりは燃えるまんじゅう)
「さて。次は幸の思い出を辿るかな。長崎からなかなか出られんけどな」
特にあてのある旅ではないのだ。
こんな機会でもないと、出不精の司が動くことはあまりない。
「まかせてー」
幸はポケットに残っていたボンタンアメを、司に押しつけた。
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