ミッション-A

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ミッション-A

 枩隈秘書に案内されて、連れてこられた場所は、あたしが普段勤務する研究棟とは離れていたものの、怪しげな地下室とかではなかった。 「ここ、資料棟ですよね」  膨大な過去の研究データや、研究論文、各種学会誌、研究資料の図書なんかが保管されている4階建ての――通称「資料棟」。  エレベーターで最上階まで直行し、廊下の突き当たりのドアを開ける。正面の壁にブラインドが下りていて、ガランとした30㎡くらいの部屋の中央に2mほど離れて机が2つ並んでいる。机の左側にはパソコンが、右側には大型鳥類の孵化に使う孵卵器が設置されている。 「伊薗さんは、この作業室で被験体の様子を記録してください。セキュリティは虹彩認証システムで、既に登録済みです」  枩隈さんはパソコンを示す。私の虹彩、いつの間に登録したんだろう。 「中を見ても?」 「それは後ほどお願いします。記録の仕方やマニュアルが入っています」 「分かりました」  中身が天使とはいえ、記録対象は卵だ。数種類の鳥類なら、学生時代に孵化させたことがある。 「さて、次に宿泊ですが――」  加々美さんを残して、連れ出される。エレベーターを下りてすぐ、左側にトイレと給湯室があり、その斜め向かいの一室。広さは単身用のワンルームくらい。コンクリートの床の上に若草色のホットカーペットが敷かれ、ベッドとローテーブルが運び込まれていた。 「着替えは用意します。お風呂は、隣の福利厚生棟にあるトレーニングジムのシャワールームを使ってください。食事は、職員食堂でお願いします。お好きなものをお好きなだけ召し上がっていただいて構いません」 「えっ、それって食べ放題ですか!」 「はい、ミッション期間中は無料になりますのでご安心ください」  うちの職員食堂は、元三つ星レストランの料理長と管理栄養士がいて、味も栄養バランスも素晴らしいのだが、少々お高めなのだ。  あたしの表情が明るくなったのを見て、枩隈さんはクスリと笑う。
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