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6・死に際のうわばみ
さて、その晩のことです。山の中ではうわばみがのたうち回り、雷のような叫び声と、地響きのような振動が起こりました。
さては……き、昨日の、たぬきだな?
あいつが、お、俺の、じゃ、弱点を……バラし、バラしやがったんだなぁ!?
うわばみは激しい痛みを抱えながら、血眼になって田の久を探しました。
窮鼠猫を嚙むということわざがありますが、時にあり得ないことを成しえる、なんてことがあるのです。
うわばみは、田の久の居場所などまったく知りませんでしたが、偶然にも山をおりたところの村の、ミリキアとかいう人間の家にいることを突きとめてしまいました。
息を荒くし、腐りきった体をなんとか動かし、ミリキアの家の屋根へと登り詰めました。屋台骨はメキメキと軋み、重々しい音が家中に鳴り続いています。
ミリキアと田の久は慌てて目を覚まし、窓から上を覗きました。そこには目玉が血走り、真っ黒で鋭い牙をむき、ムチのようなヒゲをたくわえた、まるで竜のような姿をした、恐ろしいうわばみがトグロを巻いていたのです。
田の久も恐れおののきましたが、それよりも怖がったのが、ミリキアでした。
「り、リルウちゃん……、こ、これ、が、うわ、わ、うわばみ⁉」
「は? 知らなかったの!?」
「もうちょっとウサギさんみたいな、カワイイ感じだと思ってた!」
「なんでよ!? 『人を食う』っていわれてたでしょ!」
自分の作り上げたイメージとのギャップに驚き、ミリキアは震えが止まらなくなってしまいました。
「やい……たぬき」
うわばみは最後の力を振り絞り、田の久に言います。
「俺は……もうすぐ、死ぬこと……に、なる、だ、ろう……」
そして田の久やミリキアに向けて大きく口を開くと、
「だが……おま、おまえ、も……み、道連れだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
と叫びました。
声は天高くとどろき渡り、いくつもの山々を揺るがしてゆきました。
「おまえ、も……こわい、怖いものに……埋もれて……永遠に苦しむがいいっ!」
うわばみはそう言い放ったのを最期に息絶え、姿が空気のように消えてなくなりました。
その瞬間、空から大量のお金が降ってきたのです。
大判小判はもちろんのこと、10円、100円、500円といった現代硬貨が雨のように落ちてきて、さらに和同開珎、天正小判、希少で価値の高い正徳小判といった古い硬貨があられのように降り注いできました。
続いてヒラヒラと千円、5千円、1万円といったお札が舞い降りてきて、福沢諭吉、渋沢栄一をはじめとした昔の偉人の顔でそこら中が埋め尽くされてしまいました。
そして村役場のパソコンには、高額のビットコインやネットバンキング、誰が買ったか分からない宝くじ、競馬の当たり券まで振り込まれるという……。
もはや筆舌しがたい現象が起こりました。
田の久をはじめ、村のみんなはひと晩にして、大金持ちになってしまいました。
「やったね、リルウちゃん!」
「いやー、あのとき『お金が怖い』って言っといてよかった~……」
田の久は胸をなでおろしました。
「リルウちゃん、うわばみとそんな話してたの?」
「そうそう。ちゃーんと、こういう風に得するように、仕込んだんだ」
田の久は得意げに笑いました。
「さすがリルウちゃん!」
ミリキアはすっかり感心していましたが、天然な彼女は、田の久の顔が引きつっていたことには、気づきませんでした。
昔まっこう、さるまっこう。
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