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現実へ帰る
令和日本を生きる男子中学生は現実へもどる。
「嫌な世界だった」
小説好きの友達から聞いたような夢のような生活は異世界にはなくて、現実へもどるためにはいくつか条件があった。
そりゃそうだ。
異世界も現実だったから。
もう語りたくない。
ドラマチックな出来事は現実じゃないから面白いのだ。
時間の流れを心配していたがどうやら浦島太郎のような感覚を体験することはなかった。
さすがにそこまで現実は残酷じゃなかった。
ただしほっとする瞬間はない。
課金していたサブスクの請求が宍戸のスマホに通知される。
前にチャージしたはずがド忘れてしていたようだ。
異世界で起きた数年間はたった一時間で終わった。
あとはコンビニに行ってチャージするだけ。
顔がそんなに良くもない男の子がロマンのない生活を送るだけ。
このさき高校や大学へ受験しても結局は起業とか副業を考えざるを得ない。
好きなことは一生できないとわかった上で怪物も毒のある生き物や食べ物もないが、ある程度安全でつまらない何十年も改善されることがない椅子取りゲームへと進みだす。
「幸せなんてあるもんか」
スレてるわけじゃない。
そう見せてるだけ。
みんな演技が上手くて陰では歳上達が作った世界を笑ってる。
さっさと買いに行こう。
高校生になったら都会へ一人暮らしして、そこから海外か治安のいいリゾート地へ暮らそう。
人間関係を選びながら。
年輩のコンビニ店員はこの時代にしてはめずらしい自然な笑顔をみせて会計してくれた。
さくっとチャージしたあとに家へ帰ろうとすると一人の女の子が自分の前に立っていた。
「君も異世界から帰ってきたばかり?」
布にくるまれた目が一つだけある翼の生えた動物を見て全てを悟った。
「まさかこの地区にもいたのか。異世界から帰ってきた子が」
「私もおどろいてる。しかもほとんどあそこで経験したことを感じさせない人が中学生でいるなんて」
俺はただものじゃない。
女の子は宍戸にたいしてそう考えているからか、宍戸が帰るのを待って話しかけにきた理由がなんとなくわかった気がした。
「帰ってきたものどうし仲良くするしかないか」
「え?同じ境遇の女の子に話しかけられて可愛いバディまで育てている私に何も思ってない?」
「そんなわけないじゃないか。ただこの世はSNS社会。コンプラがきびしくても誰も助けてくれない世界で俺たちは生きてる」
そんなことを言いながら宍戸は彼女の手を取り走っている。
一つ目の動物は現実で育てたらあっという間に危険な存在に変わる。
彼女はそれを知ってて宍戸が倒した敵の子供をさらった。
ったく。
やっと元の日常に帰れたと思ったのに。
宍戸は初対面の彼女とだまって走った。
「育てよう。異世界の詳細を知っている俺たちだけならなんとかできる」
「え?」
「こうなったら死ぬまで付き合うよ。いまいましい異世界から帰ってきた残りの現実も」
そのうち彼女と恋をするかもしれない。
一つ目の動物が支配者にならないよう、宍戸は彼女を秘密の場へ案内する。
ここから全ては人間関係と異世界クリーチャーとの共存のため、記録へはのこさない。
何をいちばんに伝えるか。
未来に待ち受ける疑いだらけの社会経験も異世界の暮らしも、そしてさらに待ち受ける厄介事も勝手に育って腐ってしまう現実でしかない。
それでも宍戸達は生きていく。
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