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side煌牙
タクシーを降りてすぐ、俺は鋭い視線に気が付いた。
昴を見ると、勘がいいからか既に敵の位置を把握している。
昴は俺にしか分からない角度で上を指していた。
そしてその後は手話で敵の名を教えてくれる。
ーた か な し れ んー
どうやら上からこちらを見ていたのは俺たちを散々泳がせていた小鳥遊蓮。
一体何のつもりかは知らない、でも一つだけ確かなことは小鳥の事を諦めてはいないと言う事。
この突き刺さるような視線がその証拠だ。
昴は敢えて俺に恋人らしく振る舞えと言っている。
小鳥はこの状況に気付いてすらいない。
小鳥に言おうかと迷ったが、わざわざ不安にさせることはないと思い黙っている事にした。
まぁ、今黙っていたところで確実に後でかち合う事になる。
「あ!煌牙!腰じゃなくて背中にして?お願いだから隠して、私の背中!」
小鳥は真剣に俺に頼み込んでくる。
確かにかなり大胆なドレスではあるが……。
「隠したら勿体無い、綺麗だから問題ないだろ。」
「なっ、何も出てこないよ!?そんなこと言っても////////」
何気ない一言に照れるその素直さが俺には可愛く思える。
こんな人でありたい、そう思う時すらあった。
だからこそ掻き立てられるんだろう、庇護欲が。
小鳥の腰に手を回したまま小鳥遊蓮の視線を振り切るようにホテルに入る。
ロビーに付けばスーツを着た若い女が俺たちに近付いてきた。
気配からしてヴァンパイアだな。
「本日はようこそお越しくださいました、白狼様、如月様、黒井様。
会場までご案内します、原田と申します。」
明らかな差別だな、小鳥の名前だけ呼ばなかった。
一言言ってやろうとしたら小鳥が俺の腰の辺りを肘で軽くつついてきた。
きっと何も言うなと言いたいんだろう。
でもな、俺の統計上こう言った失礼な奴は最初が肝心だと思ってる。
「西園寺家の使用人はみんなあんたみたいにしょうもないのか?
それとも、白狼家は西園寺家に舐められてんのか?」
あまり家の名前を使うのは好きじゃなかった。
本来なら俺の力だけでどうにかしたいが仕方ない。
権力には権力でしか対抗できないからだ。
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