全年齢対象

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全年齢対象

 彼女は謎めいた美女だった。年のころは二十代半ばくらい、俺より少し下かもしれない。黒いショートボブを揺らして、駅で電車から降りた俺の手を掴んだ。すわ痴漢の疑いをかけられたか、と身構えたが、彼女は小声で言った。 「追われているの。助けてくれない」  艶やかな声に請われるまま、俺は彼女を連れて『追手』から逃げに逃げた。 「君は何から逃げているの」 「逃げ切れたら教えてあげる」  黒服の男たちをようやくまいて、二人でホテルに入ったのはもう深夜だった。 「本当に逃げ切れるとは思ってなかったわ、お礼をしなきゃね」  二人きりの部屋で、彼女がぴったり体をくっつけてくる。俺は身を固くした。 「いや、困ってる人を助けるなんて当然のことですから……! あの、この小説は全年齢対象なんでちょっとその、そういうのは!」  焦りに焦って逃げ出そうとしていると、彼女が耳元で囁いた。 「助けてくれてありがとう」  そして、スッと身を引いた。 「……え? あ、……はい、どういたしまして……」  俺の反応に、相手の方が不思議そうに首を傾げた。 「お礼の言葉、間違えてたかしら? それとも、他にお礼の方法が?」 「い、いいえ、完璧に正しいです!」 「それなら良かったわ」  彼女は微笑んで、最初に言っていた通り、何から逃げているのかを教えてくれた。とんでもない話だったが、彼女は研究室で生まれたばかりのクローン人間だというのだ。実験台にされるのが嫌で逃げてきたのだと。 「……ってことは、実質0歳児ってことか」  さっきのドキドキを返して欲しい。 お題「謎」
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