プロローグ

2/10
前へ
/42ページ
次へ
 「いいじゃん、別に。ターゲットみんなクズなのは確かなんだから。難しいこと考えるのはやめようよ」  カウンター前のスツールに座り、遊園地のコーヒーカップのようにくるくると回りながら言ったのはティナ。今は白いTシャツにデニムというシンプルな格好だが、小脇にこれから身につける衣装を抱えている。動きを止めストンとフロアに降りると、セミロングの黒髪が揺れた。それに合わせたようにウインクする。  彼女の言動に皆が「ふっ」と笑う。  「クズか……」  カウンターの奥にいたリュウが目を伏せた。 「どうしたの?」  ティナが覗き込むようにする。  「いや、なんでもないよ。そうだな、俺達はただ、ゴミクズの掃除をするだけさ」  首を振りながらリュウが言う。革製のヘッドバンドとベスト、そして、若いが思慮深そうな表情は一見ネイティブ・アメリカンの青年を思わせた。  「いいね、その言い方」フェルムが笑う。「じゃあ、さっそく掃除を始めようぜ」  全員がセオを見る。  彼が頷いたのを合図にしたかのように、灯りが消えた。  そして、バーには誰もいなくなった――。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加